ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

豊かな自然の中で命と喜びが染み込んでくる

いとの森の家 』の

イラストブックレビューです。

 

緑に囲まれた小さな村に引っ越してきた小学四年生の加奈子。都会との違いに戸惑い
ながらも、その豊かな恵みに満ちた暮らしに魅了されていく。そして、森で出会った
おばあさん、おハルさんと交流を重ねるうちに命の重みや死について、そして生きる
ことについて考えていく。

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父が家を建てたため、都会の団地から田舎へと引っ越してきた両親と姉、妹、そして
加奈子の一家。はじめて学校に通う日、道路の上に潰れたカエルがたくさんいて、
その匂いや見た目に気分が悪くなってしまった加奈子。無理もないとは思いますが、
この先の田舎暮らしに馴染んでいけるのか?と少々心配になってしまいます。

ところが、クラスのみんなが対戦して遊んでいたオケラに興味を持った加奈子は、
はじめてできた友達、咲子とオケラをとりにいきます。茶色く、小さなオケラはお腹を
そっと押すと手のカマをふわっと広げます。この様子がなんとも可愛らしく、大事に
持ち帰ります。

残念ながらオケラを使った戦いは、先生に見つかり中止となってしまいます。
しかし、それは加奈子にとって虫の命を考えるきっかけとなったようです。

加奈子身の回りには、様々な出来事が起こります。
自転車から落ちて転び、膝を擦りむいたこと。
蛍を見に連れて行ってもらったこと。
小さな妹が怪我をして、病院に向かったこと。
習字の先生から借りた本と、先生と本の話をしたこと。

それらの出来事は、おハルさんというおばあさんを通して命や生きることを考えることにつながっていきます。

おハルさんは森に住むおばあさんで、死刑囚の慰問をしています。ある日、おハルさんは、身寄りのない死刑囚のお骨を持ち帰ってきます。おハルさんの家にやってきた加奈子と咲子にもお祈りしてくれないか、とおハルさんは言うのですが…。

見たこともない話したこともない、悪いことをした人になぜ祈らなくてはならないのか?なぜその人たちの話を聞いてあげるのか?
死んでいくってどういうことなのか?
その人が死んでいいなんてどうやって決めることができるのか?
生まれてきて、生きていくってどういうことなのか?

たくさんの思いが、加奈子の小学四年生という素直な心と目線でいきいきと描かれて
います。何気ない日々の出来事や自然の営みが、命としてつながってきているのだと
いうこと。加奈子は、そうしたことを肌で感じ取っているようです。

豊かな自然、小さな妹のはじけるような生命の輝き。そして死刑囚の命。実りある美しい自然と素直な加奈子の心は、忘れかけていた「命」や「喜び」についての感覚を鮮やかに蘇えらせてくれるのです。

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