ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

彼女がまいた奇跡で世界は光に包まれる

まく子  』の

イラストブックレビューです。

 

 

小さな温泉街に住む小学五年生の男子、慧は日々成長していく女子たちや自分の
身体に恐れを感じていた。そんな時に「コズエ」がやってきた。美しくて、
ちょっと変わっていて、「撒く」ことが大好きな彼女には秘密があった。

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母親と二人で温泉街にやってきた美少女、コズエは不思議な女の子。
周囲の女子たちのように「女」を感じさせないし、何もかもはじめて見たかの
ような反応をします。そんなコズエは「私はある星から来たの」と慧に打ち明け
ます。コズエの発言に慧は戸惑います。

小さな温泉街は、美少女コズエの登場でちょっとした騒ぎになります。当のコズエは
理解しているのかいないのか、いたってマイペース。何事にも大きな目を見開き、
じっと見つめています。その瞳は先入観を持たず、ただ事実を「見ている」かの
ように見えます。

物語は、自身と周囲の成長に嫌悪や恐れを感じる小学五年生の慧の心情が、とても
丁寧にみずみずしく描かれています。生理が始まる女子、それをからかう男子。
以前はよく面倒を見てくれていた高学年男子が、今はヤンキーになっていること。
引きこもりになってしまった同級生のこと。働いている様子はないが、街に溶け込んで
いる変わった大人たちのこと。

何も考えずにいられた頃のままでいたいのに。慧は繊細で優しい性格のようです。
人を傷つけるような発言や行動はしませんが、心の中ではいろいろと考え、言葉に
できない部分もあったりして、モヤモヤすることもあります。

コズエは、そんな慧のモヤモヤを払拭してくれるような存在です。
自分は宇宙から来た、というようなおかしな発言もしますが、ドロドロしたものを
抱えていない、クリアな空気を発しています。周囲の目にとらわれず、事実を
まっすぐに見つめる瞳は、本当に宇宙人かもしれないと思わせます。

成長とは、死に向かって進むことだ。そんな風に悲観的に考える慧。
しかし、神輿を作り、祭りの後にその神輿壊す、という作業をする事で、彼の中で
変化があらわれます。それは大人になりたくないという自分を壊して、大人の身体を
持った自分を受け入れるきっかけとなったのです。

コズエが撒いたのはいったいなんだったのでしょうか。
水、土や石、葉っぱ。手からこぼれ落ちるそれらは、光を浴びて煌めきます。
撒く瞬間はとてもきれいですが、手から離れてしまえばやがて見えなくなってしまい
ます。それは輝いていた幼い頃を象徴しているのかもしれません。

さまざまな人との繋がりや出来事の中で成長していく少年の姿。
不思議な少女との出会いがもたらした、成長と命への認識。
キラキラした、大切な時間を丁寧に描いた物語です。

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