ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

逃れられない血の絆がもたらす女たちの運命

熊金家のひとり娘  』の

イラストブックレビューです。

 

北の小さな島で、祈祷の家系に生まれ育った中学生の熊金一子は、
自身の成長に恐れを感じていた。共に暮らす祖母と、自身の「血」から
逃れるべく島を出た一子。男の子を産めば、この「血」から解放されると
思っていた。しかし一子が産んだのは女の子だった。明生と名付け、
男の子のように育てる一子だったが。

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中学3年生の一子が育ったのは、北にある小さな島です。
その島で住民から「神」と畏れられる、巫女のような存在の祖母と
共に暮らしていました。多感な少女は、性行為について嫌悪感を
示しながらも頭の中から離れないような日々を過ごしていました。
彼女自身に生理が来ると、それまでの自分が解放されたように感じ、
窮屈な子ども時代と島のすべてから離れる決意をします。

こうして島を離れた一子は、職場を転々としながらも結婚して子どもを
授かります。何か悪いことが起こると、バチが当たったのだ、という
強い観念から離れられない一子。幼い頃から祖母の話を聞いてきた一子は
こうした自分を縛る鎖は、女系一家に生まれ育った自分が男の子を産めば
断ち切れると信じていました。しかし、生まれたのは女の子だったのです。

明生と名付けられた娘は、男の子として育てられます。
しかし、一子は二人目の子どもを妊娠したことで、明生に対して女の子として
生きていっていいのだということを伝えます。
男の子に生まれなかったために、自分の存在価値を疑い、悩み苦しむ明生は
中学の修学旅行で失踪事件を起こします。

一方、妹の愛子は産まれた時から女の子として充分に可愛がって育てられます。
しかし、父親の背後に血まみれの男がいつもぶら下がっているのが見えるため
父親が姿を見せると恐怖のあまり号泣するようになります。
祈祷の血は、愛子に強く出たのです。

やがて、母親である一子が行方不明になり、姉妹は父親のもとで数年暮らしたあと、
家を出てバラバラに暮らします。

女系の祈祷一家という家に生まれて、閉鎖的な環境で育った一子。
男の子に生まれなかったために、自分の存在価値を見いだせない明生。
母に出ていかれてから、流されるままに生きて行く愛子。

それぞれが、母の陰に怯え、そして強く求めています。
母がいなくなったのは、自分のせいなのか。そして、母の悪い部分は
自分の血の中に流れているのだろうか。母を思う気持ちは、彼女らを
鎖のように縛り、やがて思考も行動も停止させてしまうのです。

子どもにとっての母親というのは、肉体や精神の一部を担うほど
大きな存在なのだということが理解できます。
中途半端に関係を断絶すればするほど、その一部は濃く淀み、頑丈な
鎖となって子どもを縛り続けるのかもしれません。

一子は出ていった後、娘たちに向けて手紙を書いていました。
それは自身の過去と娘たちに対する詫び、そして娘たちを気にかける内容
でした。明生と愛子はこの手紙を読んで、何を思ったのでしょうか。
自身のこれまでの人生をよくぞメチャメチャにしてくれたな!と
思うのでしょうか。案外、二人は、
「なんだ、幸せだったんじゃん。良かったよね。」と微笑み合って
いるのではないかな。

強く重い鎖なのだけど、やはりそれは温かく、解放され難いもの。
母親の愛情ってそんなものなのかもしれません。

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