ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

だれでも、心のなかに少女を飼っている

少女病 』の

イラストブックレビューです。

編集

 

母親と呼ばれることを嫌う、変わり者の少女小説家の母・織子と、父親が異なる
三人の娘たちは一緒に暮らしていた。性格はバラバラの四人だけれど、共通して
いるのは「母親と同じにならない」ということ。自分の中の少女性を持て余し、
苦悩する女性たちの姿を描く。

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家事全般をこなす、おっとりとした長女、都。漫画家の彼と付き合う、直情型次女、
司。父親の顔すら知らない、真面目な性格で美人の高校生、三女の紫。それぞれ
父親は違いますが、母親はひとりの女性、というか、万年少女と言ったほうが良い
かもしれない、少女小説家の織子です。

娘のもとに訪れる人には、「私はこの姉妹の長女です」と言ってみたり、次女宛の封書をこっそり自分の引き出しにしまい込み、挙げ句の果てに開けて見てみたり、「笑って
はいけない」シーンでつい笑いが込み上げてきてしまったり。

美しいもの、綺麗なものが大好きで、家事はいっさいできず、子供達にちょこちょこ
いたずらをする。奔放という言葉がぴったりの母、織子が姉妹全員と直接の血の
繋がりを持つキーマンとなります。

物語は、各章ごとに、登場人物が一人称で語り、本人の目線で家族たちを見つめます。
自分の置かれた現在の状況、これまで育ってきた環境。父親がいない、いわゆる世間で
言う母親像とかけ離れた母親と、一風変わった環境で育ってきた彼女たちは、それぞれ
が自分の世界を持ち、その世界の中で遊ぶ楽しみを持っています。

それはまさに「こうはならない」と思う母親の素質を間違いなく持っているということ。そして、その使い方は姉妹で性格の違いなどによって異なるようです。
長女は空想の中の男女交際を楽しみ、そこにはエロ要素は何一つありません。
次女は売れない漫画家である彼氏にベタ惚れで彼が成功することを信じて疑いません。
三女は、時折「父親かもしれない」相手と架空の逢瀬を楽しみます。

母親も三姉妹もどこか「イタイ」要素を持っているのにちっともイタくない。
それは「ピュア」だからでしょう。混じり気のない少女性を、心の中に置いておき、
育てておける環境が長くあったから。そうすることで、その少女性はその人に、ほかの
人にはない輝きを与えているのではないでしょうか。手本として母親が目の前にいる
ことも大きいでしょう。

そうしたやわらかで、あたたかで、美しい世界から脱出するのは至難のワザ。しかし
その脱出を手助けするのもまた、母親であったりするのです。少女だっていつか大人に
なっていくのです。一番「大人になれよ」と周囲に思われがちな母親が、案外
世の中と家族を冷静に見つめ、家族の変化を嫌い、抵抗していたのかもしれません。

「ステキな王子様がやってきていつまでも幸せに暮らしましたとさ」
そんなの現実世界にあるわけないじゃん!と思いながらも、どこか「いやひょっとした
ら、もしかして」と思ってしまう少女性は、誰もが心の中に少しくらい持っているので
はないでしょうか。完全に決別しなくても、心の中の引き出しに仕舞っておいて、必要のある時にだけ取り出してみる。そんな風に器用に少女性を使いこなせるのが、女性という生き物なのかも。そんな風に感じた物語です。

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