ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

全てを失った者にとっての本当に安全な場所とは

彼女たちが眠る家  』の

イラストブックレビューです。

 

九州の離島にある家。ここには、ある問題を抱えた女たちが集まり、世間から
距離を置き、静かに暮らしていた。互いの過去や本名や過去も知らず、ネット
禁止という環境で過ごす彼女らのもとへ、ある母娘がやってきた。彼女らに
よって、ここでの生活が大きく変わっていく。

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悲しみやつらさを抱えながらも前を向いて生きていく、読む者に力を与えて
くれる人間ドラマを描いた作品が多いように感じる原田ひ香さんですが、こちら
は珍しくミステリーの風味。そして湊かなえ作品っぽいなあと感じました。
ちなみに解説は湊かなえさんでした。お二人はご縁があるようですね。

九州の小さな離島。ここに住む女性たちはある問題を抱えています。
表向きは自身のアレルギーを改善させるために、田舎で暮らしているという名目
ですが、近隣の方たちとは不自然にならない程度に注意深く接しています。
犯罪を犯したのか?それともDV被害から逃げてきたのか。

主人公はここの暮らしでは「テントウムシ」と呼ばれています。年の頃は40代半ば
から後半くらい?リーダーはマリアと呼ばれる年長で白髪の女性で、彼女が住民たちに
虫の名前をつけて、その名前を家の中で呼び合っているのです。

新たに入ってきた母娘の、母親はミツバチ、娘はアゲハと名付けられます。
彼女たち、特に娘である10代のアゲハは美しく、そしてテントウムシたちが知らない
うちに島の男性たちと接触したりしているようです。その行動に不安や不審を抱きつつ、テントウムシは図書館で、禁じられたネットを使ってアゲハについて調べるのです。

テントウムシ、ミツバチ、アゲハたち、この家に住む女性たちがが過去にあった出来事は、悲惨な出来事でした。悲惨、という一言では済まされないものかもしれません。
それは、ネット上に流されたくない画像や動画を流されてしまったことです。
職場にいられなくなり、付き合っていた人とは別れ、住む場所を変えても常に
誰かに後ろ指を指されているような気がする…。

アゲハもそうした被害者の一人であったのです。しかし、それで終わりではありません。それはアゲハのほんの一面でしかなかったのです。そこから奇妙にねじれた母娘たちの発言や行動が、テントウムシを追い詰めていくのです。目的のためには自分の恥ずかしい画像だろうが利用してみせるという女の恐ろしさ。そう思ってしまう原因の悲しさ。怖いはずなのに悲しみを感じてしまう。そこが原田さんらしいところなのかもしれません。

ハッピーエンドとは言えない(かといってバッドエンドでもない)物語ですが、
ボロボロに傷ついた女性たちが生きていこうとする姿に胸を打たれますし、そして
ようやくたどり着いた安心できる場所でさえ奪っていく悪魔の姿にゾッとするのですが、でもそんな悪魔を気の毒に思う自分がいます。

大事なものがあれば強くなれる。その強さは時に、歪んだ方向へと伸びていくことが
あり、本人が気がつくまで誰にも止められないのだということ。そして、本人は薄々
気がついていたとしても、止められなくなっていることがあるのだということ。
そこが人間の悲しさであるのかもしれない。そんな風に感じる物語でした。

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