『中野のお父さん 』の
イラストブックレビューです。
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- 作者: 北村薫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/09/04
- メディア: 文庫
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体育会系出身の若手文芸編集者、美希。
ある日、新人賞の候補者に電話をしたが、その人が応募したのは何年も前
だという。この不可解な謎を高校教師である父に話してみたところ…。
出版界に起こる謎を高校教師が解き明かす短編集。
中野の実家には両親が二人で住んでいます。
独立して実家を出た美希は、職場の近くで一人暮らしをしているものの、
ちょくちょく実家に顔を出しています。ちょっとした手土産を持ってふらりと
実家に赴き、充電して帰る、といったところです。
ある時、美希が新人賞候補者へ電話を入れたところ、その候補者は応募していない、と
言います。よく話を聞くと、応募はしたのだが、それは一昨年だ、と言うのです。
狐につままれたような気持ちで、実家の父親に話を聞いてもらった美希。
香ばしい蕎麦茶を手にしながら、父親は推理を働かせます。
新人賞の受賞候補者である父と、大学に勤める娘の、少し間を置いた関係から
生まれた今回の出来事。結果として、丸く収まったのは、やはり父親が娘を
大きく、暖かく包み込むように思う気持ちがあったからでしょう。
他にも、今は亡き作家が、別の作家に宛てた意味ありげな書簡、区切る場所で
解釈が反転してしまう吉原を唄った句の謎など出版に関わる小さな謎や
さまざまな疑問を、中野のお父さんは鮮やかに解決していきます。
編集者同士の軽妙なやりとりや、文学も好きだが娘はもっと好き、という
空気をほわほわと漂わせているお父さんの描写に、笑顔になったり、ほっこりと
した気持ちになったりします。気のおけない父娘のやりとりは、素直に父親を
尊敬する娘の気持ちや、娘が大切だ、という父の気持ちが伝わってきます。
自立した後のステキな父娘関係。仕事の謎まで相談できて、かつ解決してくれる、
優しくてスゴイお父さんはやっぱり娘ラブ、なんです。