ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

「復讐」によって何が得られ、そして何が失われるのか

ジャッジメント 』の

イラストブックレビューです。

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20××年、凶悪な犯罪が増加し続ける日本で、新しい法律が生まれた。
それが「復讐法」だ。復讐法は、被害を受けた内容を、合法的に刑罰として
犯罪者に対して執行できるというもの。犯罪者によって家族や恋人を失った
者たちは、同じ行為犯罪者に対して行い、命を奪うことで、果たして救われるのか。

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『やられたらやりかえせ。』
合法的にこんなことが実行できるとしたら、あなたはどうしますか?
常にこんな質問を突きつけられながら読む、とても辛く、それでいて
読まずにはいられない物語です。

様々な状況で命を奪われた5人と、その遺族たちが描かれています。
集団暴行によって十六歳の息子の命を奪われた父親。
十四歳の自分の娘の手によって、同居していた実母を刺し殺された母親。
街中で起きた無差別殺人の被害に遭った者たちの、兄、娘、婚約者。
占い師に自分の息子を屋上から突き飛ばされ殺された母親。
両親の虐待によって当時五歳だった妹が餓死した十歳の少年。

犯罪者側は、なんらかの意思を持って人を殺しています。
家族を突然失ってしまった者たちは、うろたえ、悲しみ、そして怒りを
覚えるのです。しかし、そうした被害者の遺族たちも、執行するかどうか、
執行自体を決めたとしても、犯罪者の命を奪えるのかなど、常に気持ちが
逡巡します。いくら家族の命を奪った相手とはいえ、そいつを殺してしまえば
自分も殺人者です。そうした迷いが起こるのは無理もありません。

執行する側は、犯人が死ぬ前に自分の罪を反省し、心から謝罪をしてくれたら
いいのに、と思う部分があると思います。そうすれば、殺すことはしないで
済むかもしれない、と。

しかし、この作者の冷静なところは、人間はそうやさしくできているとは限らない、
と描いているところです。全く反省のないまま、処刑されていく者もいます。
人を殺すことに何ら罪悪感を持たず、自らの死を面前にしてもなお同じ状態なのでは
犯人の命を奪ったとしても、心には虚しいものしか残りません。

人を赦す、自分を赦すことはとても難しいことです。
ましてや、「赦さなくていい」と言われた状況では、同じ立場に立たされたとしたら
自分はどのような決定を下すのか、見当もつきません。そして、当たり前の事なのですが、人間は一人一人考え方や感じるものが異なる、ということ。復讐のために相手の命を奪うことを選ぶ者もいれば、選ばない者もいる。そのことについて第三者がとやかく言うことはできないのではないでしょうか。本人が悩みに悩んで決めた結末を、誤っている、正解だなんて誰も決められません。

命が強制的に奪われていくという行為が、肉体だけではなく、精神的にも大きな
苦痛を伴う者であること。 それ以上に苦しく、困難なことが「赦す」という行為なのではないでしょうか。生と死、罪と罰、赦すことと復讐すること。あらゆる事に思いを
巡らし、深い読後感を与えてくれる物語です。

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