ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

始末をつけるのは借金と叶わなかった妹の恋心

始末屋』の

イラストブックレビューです。

 

吉原で、客から借金を取り立てる始末屋「だるま屋」で働く直次郎は、花魁・真鶴から
依頼を受ける。妹分、花菊の首を絞めて逃げた男を探し出し、百両を取り立てて欲しい、
と言うのだが。

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吉原で妹のしのを亡くし、それから心を閉ざし情け容赦なく借金の取り立てをしてきた
直次郎ですが、真鶴の依頼を受けてから少しずつ様子が変わってきます。取り立てた男の子どもの様子を気にしたり、離れかけた花魁と男の間を繋いでやったり、他人の気持ちを思いやるような様子がでてきたのです。

そんな直次郎の様子を、嬉しくももどかしい思いで見つめているのが、「だるま屋」の
一人娘、お蝶です。お蝶は直次郎に思いを寄せ、何かと気にかけているので、直次郎が
他人に心を開いてきた嬉しさと、それが真鶴のせいであることに嫉妬を感じ、その心は
千々に乱れます。

そんなお蝶に惚れているのは、同じだるま屋で働く、直次郎の兄貴分である伊八。
取り立てに失敗すればだるま屋自体が存続の危機に見舞われるという、真鶴の依頼も
気に食わず、直次郎には何かと突っかかる伊八。しかし、直次郎が人に目を向けはじ
める変化を感じたり、その過去を耳にしてから取り立てに協力することを決意します。

こうして直次郎と伊八が協力して、花菊を傷つけた男を追い詰めていくのですが、花菊の様子がなんだかおかしいのです。その姿は、直次郎に、亡くなったしのが語った恋心を思い出させます。

閉ざされた吉原の世界で、色を売る女たち。客と恋仲になることもあるでしょう。しかし、好きになったからといって、すぐに一緒になれるわけではありません。膨大な揚げ代を払える男性でなければ、吉原から女を連れ出すことはできないのです。

運良く出れたとしても、吉原で幼い頃から育った女たちは江戸の町の様子や常識を知りませんし、周囲から「女郎あがり」と指さされることもあります。一見華やかに見える吉原の世界は、金にがんじがらめに縛られ、身動きできない女たちがひしめきあっているのです。そんな女たちが羽ばたけるのは、好きな男性と共に過ごす時間なのかもしれません。

吉原の世界で生きていくことも、出ていくことも命がけ。吉原に来る客も、借金の取り
立ても、みな生きている証を得るために、仕事をし、愛する人を守っていこうとしているのではないでしょうか。彼らの、熱い息遣いと鼓動が聞こえてくるような吉原の物語です。


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