ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

都会の夜が人をやさしく包み込む

おやすみ、東京 』の

イラストブックレビューです。

 

午前一時、東京の夜では思った以上にさまざまな場所や場面で誰かとすれ違っている。
映画会社で撮影用の小物を調達しているミツキは、深夜に「果物のびわ」を朝9時までに探すように言われ、夜のタクシー「ブラックバード」の運転手、松井に協力を求め、夜の街を探しまわる。わずかな違和感、寂しさ、記憶を抱えた者たちが夜の都会でつながっていく。

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24時間スーパーなどをまわっても、びわは見つからず。ミツキは、カラスの生態に詳しい彼氏に、ダメ元でメールで問い合わせたところ、何とびわが今なっている木が近くにあるという返事が。松井の運転するタクシーで向かってみると、びわのなる木を発見!しかしその木にはすでに先客がのぼっていたのです。恐る恐る声をかけると「びわ泥棒よ」とのお返事が…。

びわ泥棒は可奈子という名の女性。彼女に誘われるまま、住まいであるアパートにお邪魔して、毎年この木のびわを使って作るというびわ酒をご馳走になります。松井は運転があるので香りを楽しむ程度で。それから可奈子が取ったびわをひと枝もらって、安心して帰路に着いた可奈子なのでした。

こうした、ちょっと不思議な出来事からはじまり、出会う人たちが少しずつ関係しながら東京の夜を映し出していきます。電話を処分する女性、探偵と名乗る男性、その男性が常連客だった食堂で働く女性、加奈子の弟、ガラクタを売り物とし深夜だけ開く店の店主。

そんなんある?そんな人いる?でもちょっといるような気もするね…。
というギリギリのラインで、偶然や必然が重なりあっていきます。それもクッキリとしたものではなくて、うっすらとしたした様子で。それは、登場人物たちが、直視してしまったら強く期待してしまう分、希望した結果ではなかった場合の絶望が強くなってしまうために、あえてそのような目線を持たせたのかもしれません。

おとぎ話を信じられなくなった大人たちが、目の前の偶然や事実に魔法のような力を
感じる。東京の夜は冷たいようでちょっぴり温かくて、不思議な偶然があちこちに散ら
ばっている。そんなことを感じさせてくれるステキな物語です。

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