ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

大正から令和まで その歴史を刻んできた東京會舘

東京會舘とわたし 』の

イラストブックレビューです。

 

東京、丸の内大正11年に創業した東京會舘
関東大震災、空襲、GHQによる接収など、歴史の荒波にもまれながら、人々を
受け入れてきた、建物の物語。

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東京會舘は大正十一年に、庶民の社交の場として建設されたそう。庶民ですよ!
とはいえお金持ってる庶民ですね。それと、頑張って稼いだお金でやってくる庶民。
役割は主に宴会場。パーティーや結婚式、そしてショーなんかも行われたようです。
昭和になってからは料理教室も開催されています。メニューは、會舘レストランで
出すものと同じ。レストランの味をご家庭で、がコンセプトですってよ奥さま!

この料理教室は「大家さんと僕 これから」の大家さんも通っていらしたとか。
本書には料理教室の先生、つまりレストランのシェフも登場するわけですが、
在りし日の大家さんもこのシェフからお料理を学んでいらしたのかしらと思うと
何やらほっこりします。

前半では、クラシック演奏会、戦時中の結婚披露宴、戦後に生まれたオリジナルカクテルなどがテーマにあります。それぞれ利用する客や、スタッフが主役となり、會舘の内から外から会館での出来事が描かれています。

個人的に気に入ったのはオリジナルカクテルの誕生物語です。戦後GHQに接収され、建物の名前も「アメリカン・クラブ・オブ・トーキョー」と変わり、高級将校のための宿舎とクラブへと役割も変わります。そのバーで働く桝野と、その先輩の今井。彼らはアメリカ兵たちに酒を提供していますが、ある時、マッカーサーが訪れ、昼間からの飲酒を禁止されてしまいます。そこで開発されたのが…。

酒に見えないカクテルです。見た目は何とミルク!ミルク入りのジン・フィズなんですって。いったいどんな味なのか…。モーニング・フィズと名付けられたそのカクテルは、現在も會舘風GinFizzとして提供されています。グラス上部に泡がふんわり。お酒らしからぬ白い見た目はとても興味をそそります。機会があったら是非試してみたい一杯です。

このカクテルが生まれたのは、寝ても覚めてもバーのことばかりを考えている男たちです。バーテンダーという立場ですが、アメリカ人の支配人相手に、自分のすべき主張をハッキリとするのです。それは、自分のバーテンダーという仕事に、この場所で働くということに自信と誇りを持っているから。

本書には新人からベテランまで数多くの東京會舘のスタッフたちが登場します。彼らは
誰もが自分の仕事に決して妥協せず、進化することを恐れず、また良い部分を守る事に力を注いでいます。そしてお客様に対しても、丁寧過ぎず、かといって馴れ馴れしくもない、絶妙なサービス具合なのです。

その心地よいサービスが出てくる理由というのは、彼らがお客様を「人間」として捉え、自らも「人間」としてお客様に接するからなのかなと感じました。お客様の人生に寄り添い、會舘と共に受け入れる。そんな空間を作り上げているのは、そうした彼らの血の通ったプロフェッショナルな思いなのかもしれません。

上巻は創業の大正から戦後経て、改修前の昭和時代を。
下巻は回収後の昭和から、平成までの時代を。
それぞれの時代、會舘を通してお客様や従業員の様子を描いていきます。変わっていくものと変わらないもの。そこに存在し続けるからこそ、多くの人々の心に残ることがあります。東京にこんな場所があったのは知らなかったけど、あってよかった。自分もその存在の歴史の一部に参加して、レストランやバーの昔ながらのメニューや、新しい味を試してみたいなあ。そんな風に思う物語でした。


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