ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

自分の居場所を「作る」と決意した娘の物語

跡とり娘 小間もの丸藤看板姉妹』の

イラストブックレビューです。

 

江戸は日本橋伊勢崎町の小間物商「丸藤」は、紅やおしろい、櫛やかんざしなどを
売る大店。「丸藤」には、幼い頃病弱であったために品川で暮らしていた姉の里久と、
美しくて評判の妹、桃の二人の娘がいた。里久は、これまで暮らしていた漁師町と、
江戸の大店での暮らしぶりの違いに戸惑うが、その明るく前向きな発言と行動で
周囲の人々を変えていく。

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小間物商とは、今で言うデパートの化粧品売り場のような雰囲気でしょうか。
店頭で化粧品や髪飾り、櫛などを販売しています。お客様も「綺麗になりたい」と
いう気持ちで店を訪れる女性たちです。丸藤で取り扱っているおしろいは、上質な
もので価格も高いのだとか。

そんなお店に戻ってきたのは、漁師町で育った里久。日に焼けて肌は真っ黒、女中の
仕事である味噌汁づくりをする、正座は長時間出来ない、お茶やお花の稽古全般が
苦手…。田舎育ちの元気いっぱい娘、といった体の里久。母から身のこなしから
礼儀作法まで逐一たしなめられ、いかにも大店の娘然とした妹からは、里久の
荒っぽさに呆れられる始末。

そんな里久に、父親の藤兵衛が「店の手伝いをしてみては」と提案します。
じっとしているのは苦手で、礼儀作法も出来ないけれど、お店を手伝うことで
この家の娘としてやっていけるかもしれない。里久は、張り切って店での仕事を
覚えます。しかし、店ではおしろいの売り上げが下がり、厳しい状況になって
いたのでした。化粧をしない里久が、お店にお客様を呼ぶために思いついた事とは。

化粧はできないし、興味もない。お店のお嬢様には見えないガサツさ。
でも元気いっぱいで、まっすぐで、周囲の人を笑顔にしてしまう。そんな明るい
魅力を持った娘、里久。長く暮らして馴染んだ場所と生活から、全く違った環境へと
やってきて、戸惑いも多かったと思います。

性に合わないことをやらされ、できなくて凹むことがあっても、諦めることは
ありません。結局お稽古ごとはうまくいきませんが(笑)、店の売り上げにつながる
イデアを、里久ならではの目線で次々と打ち出し、売り上げにつなげていきます。
化粧に興味がなく、綺麗になることに執着を持たない里久なのですが、そんな彼女
だからこそ思いつく発想は、斬新であり、しかもお客の心をしっかり掴むものでした。

馴染まない場所でいじけて立ち止まるのではなく、笑顔を絶やさず、自分なりの
ペースで、自分自身の居場所を作っていく。そう決意した里久が起こしていった
行動は、彼女を、いつのまにか「丸藤」になくてはならない存在にまで変化させて
いったのです。

弱さを見せない里久がチラリと見せる郷愁の思い、それをバネにして頑張る姿。
女性がおしろいでもとの肌を隠すように、里久も弱い自分の心を覆い隠して
笑顔を見せていたのかもしれません。そんな里久の強さと弱さ、そして商売の発想力、
人の気持ちに寄り添う能力に感嘆し、感動する物語です。

 

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