『家守綺譚 』の
イラストブックレビューです。
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- 作者: 梨木香歩
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/09/28
- メディア: 文庫
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今からほんの100年前。売れぬ物書きをしていた綿貫征四郎は、亡くなった同級生、
高堂の父親から家の守をしてくれないかと頼まれる。喜んで引き受けた征四郎が
住み始めた庭付き二階屋には様々なものたちが訪れる。
池がある庭付きの一軒家。庭には四季折々に草、花、鳥、獣…ばかりか仔竜、河童、
人魚、亡友までが現れるのです。
庭にあるサルスベリの木に、本の朗読をしてやっていたら、夜にサルスベリの枝がしきりとガラス戸を叩いてくる。すると床の間の掛け軸から亡友、高堂が登場し、サルスベリがお前に惚れているから気をつけろ、と言う。
亡くなった友人が掛け軸から登場することに相当びっくりしますし、場合によっては
恐ろしくもなり得る状況なのですが、征四郎は何ともナチュラルに受け入れます。
ぎゃあと叫ぶどころか
「どうした高堂」
と声かけているのです。「どうした」って!!自分だったらどうかなぁ。
亡くなった友人が意表を突いた登場をしたら、まずはやっぱり驚いてしまうと思うのです。驚いた後に喜んだりするかもしれないけれど。
それどころか、植物がお前に惚れてるよ、なんて言われて、そんな気がしてたんだよね、なんて。受け入れる認識の広さにもほどがあるというか。だからといって、完全に
ファンタジーの世界、というわけでもないのが不思議です。あくまでも日常の世界があり、その中でこういった摩訶不思議なことが起こる。つまりこうした出来事は日常の一部であるのだと。
征四郎の周囲に訪れる不思議な者たちの正体を教えてくれるのは、亡くなった友人の
高堂、お寺の和尚、お隣に住むおかみさんなどですが、彼らがまたそういった類に
詳しいのです。そして注意事項まで伝達してくれるのですから親切です。
この征四郎という人は、物書きをしているせいなのか、万事において物事を容易に
受け入れ、他人の言うことを信じやすい面があります。だからこそいろいろな、
人間ではない者たちが近寄ってくるのでしょう。時にはサルスベリに思いを寄せられ、
タヌキに大量のマツタケをプレゼントされるあたり、むしろそんな存在たちにとって
人気者なのかもしれません。
植物には気持ちがある、川のそばには河童がいる、タヌキが人を化かす。
昔話の中のような出来事が、日常生活の一部として、身の回りで起こる。
それは驚きと、ワクワクと、そしてちょっぴりの哀しみを運んできてくれるのです。
可能であればこの世界に行きたい!そんな風に感じる、懐かしくて愛おしい世界を
描いた物語です。