ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

ヤバい人たちが作り出すカオスは強い引力がある

私が失敗した理由は』の

イラストブックレビューです。

 

 

成功するには失敗しないことが大切。そう思っているものの、なかなか「成功」とは言えない日々を過ごしている落合美緒。ある夜、コンビニで勤務先の同僚と偶然会う。翌々日に出勤すると、その同僚は隣家の一家四人を殺害した容疑で連行されていた。彼女と出会ったのは、ひょっとして彼女が殺人を犯した後だったのか?他人の「失敗」に心をときめかせる美緒だったが。

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登場人物たちのアクが強すぎて、何をしでかすかわからない不安で胸がドキドキしてしまいます。まずは冒頭に登場する美緒。子なし夫婦二人暮らし。かつては共働きで美緒もしっかりと働き、収入も充分にありました。結婚し、妊娠しましたが死産。長くとるはずだった休暇を繰り上げ会社に復帰しましたが、周囲の空気に耐えきれず退社。鬱気味となったために引っ越しをして、最近ようやく落ち着いてきたので近所のスーパーでパートタイムで働き始めたのです。

普段は人と関わらないようにしている美緒ですが、同僚のおばちゃんが「練馬に引っ越すの」と一言漏らしたところから彼女の心に火がつきます。東京に住む!いいな!私も暮らしたいな!そうだ23区がいい、港区かな!?と思考が暴走して、これまでになく周囲の人々にも陽気に受け応えをしています。もともとパワフルで、自分の思うように強引に物事を進めることを得意とする美緒は、以前の彼女に戻り始めたようなのです。でもちょっといきすぎなんじゃない?というような余韻を残しながら。

彼女の同僚が連行されたと知ると、美緒の中には歓喜とときめきの波が湧き上がります。そして、他人の「失敗」を集めて一冊の本にしようと思いつくのです。こんな失敗した人でも頑張っているよ、というところを描くのは表向き。裏にある本音としては、人の失敗はみんな大好きだから、みんなで楽しめばいいじゃない、といういやらしい部分を遺憾なく発揮した考えのもとです。

出版社に勤める元彼を誘導し、会社をやめさせ、出版社を立ち上げさせ、そして共に本
を作ろうと持ちかけます。男のほうも、強引な美緒に辟易しながらもうまく転がされて、言われるがまま。よ、弱い…。こうして、殺人犯の疑いをかけられてしまった美緒の職場の同僚、かつて大人気だったが借金を抱えて自己破産し、あの人は今状態になっている作家など、いろんな失敗を経験した人物を見つけ出してきては、取材を取り付ける美緒。何気にすごい手腕です。

しかし取材をした人たちにも変化が訪れ、やがて大逆転の人生に…?
そうした彼らの失敗からの大成功を目にした美緒は。

もうすごいです。登場人物たちが、お前それダメだなあってことを必ず何かやっています。つまり全員が「失敗」経験者なわけです。それをまた、他人や環境を恨んだり、運のせいにしたりして、さらに自分より不運な人間を笑う。負の連鎖です。

そして彼らにふりかかる災難の数々。よくもまあこんな展開を思いつきますね、といったカンジでもうカオスです。もはや失敗とは、不幸とは何なのだ?とその概念があやふやになってきてしまうほどです。これでもかこれでもかと重なる不幸の連続に、ラストはどうなってしまうのか、そして殺人事件の真相は何なのか、まったくもって予想がつきません。

イヤミスとは言いますが、悪意のリミッターが振り切れすぎるとなにやら笑えてくるものなのだなあと。もはやエンターテイメントと言えるのでは。さらに著者が自身の過去の作品を登場させ、登場人物に「かなりくだらない作品」とさんざんディスらせています。そして思いがけない形で著者自身が登場したりして…。センスあるなあ。これはもうユーモアの領域でしょう。ということで、この物語の読後感はうわあ…うわはは(乾いた笑い)。そして作家をむやみにディスるのはやめようと強く感じたのでした。
(いや今までもディスっていませんけどもね)

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