ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー  』の

イラストブックレビューです。

 

11歳の息子が通いはじめたのは人種も貧富もごちゃ混ぜの「元・底辺中学校」だった。
思春期まっさかりの彼らにふりかかる様々な出来事。人種差別、ジェンダーの悩み、
貧富の差の問題。パンクな母ちゃんと、真っ直ぐに問題に向き合い、しなやかに
壁を乗り越えていく息子の姿を描くノンフィクション。

f:id:nukoco:20190930052448j:plain

イギリスの、一般的に「荒れている地域」と呼ばれる地域に住んでいる著者一家。
近所の学校も常にランキング底辺あたりをさまよっているのですが、息子さんは
市の学校ランキング1位の公立カトリックの小学校に通っていました。旦那さんの
親戚に修道女や親父がいたことで、その小学校に入学できたようです。そのまま
系列の中学校に進むかと思いきや、息子が学校見学を経て選んだのは、地元の
「元・底辺中学校」だったのす。

この学校の特徴は音楽が盛んであるということ。イベントには学校の生徒達の多くが
なんらかの楽器を手に取り、そのエネルギーを音楽にぶつけています。その結果、
底辺から抜け出し、ランキングの順位を上げはじめているのだとか。息子さんは小柄
ながら真面目で素直な性格。そんな荒くれどもの中でやっていけるのでしょうか。

学校では日々、いろんな問題が起こります。
差別や貧富の問題、ジェンダーの悩み。差別一つとっても実に複雑です。
ヨーロッパやアジアなど、地域の文化に対するもの、国に対するものなど、それぞれの
価値観や育ってきた背景などが何層にも重なり問題が複雑化しているように見えます。
差別にあたらないよう発言には注意を払っている大人でさえ、時にはその地雷を踏んで
しまうほどです。

しかし、著者と10代の彼らは日々問題と向き合い、逃げることなく挑んでいきます。
そして壁と思うことをひらりと飛び越えていくのです。著者である母ちゃんの、息子へ
向ける真摯な言葉がストレートであり、それでいて「考えなさい」と優しく見守って
くれているように感じます。

「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ」
「楽じゃないものが、どうしていいの?」
「楽ばっかりしてると、無知になるから」

多様性についてやりとりした母子のこの言葉にハッとさせられました。
差別的な言葉や行動は、その国の文化的背景や個人についてなどを知らないから
発せられるものなのです。とはいえ、自分が生まれ育ってきた環境以外の状況を
学ぶのは難しいもの。そこで、必要とされるのが「エンパシー」です。

「シンパシー」と似ていますが、共感や同情など、理解できるものについて感情を
共有するのがシンパシーとすると、「エンパシー」は想像する力、が近いようです。
問題が多様化しすぎて、勉強が追いつかない、どこをどう調べたら良いのかわからない。
複雑に絡まりすぎていてわからない。そんな時は、全くわからない相手に対して
いかに「想像」できるか。どんな気持ちでいるのか、どうしたいのか。わからない
けれども想像することが大切なのだと、息子さんから教えられます。

日本に生まれ育ち、国はずっと日本のまま変わらなくて、周囲にもほぼ日本人しか
いない。そんな状況で生きてきた自分にとっては、衝撃の内容でした。それを、
中学生の少年が、日々手加減なしの国際会議みたいな状況であれこれ体験しているのです。差別に貧困。多民族の文化が行き交うイギリス中学校はまさに世界の縮図です。

国や人種をきっちり分けたがる大人に対して、彼らはとても柔軟に対応しています。
そうして区別化することですら意味のない世の中になっていくかどうかは、自分たちの
ような大人こそが、「シンパシー」を持って相手と接するべきなのかもしれません。
多国籍の人間が集まる場で、混乱が起こるのは当たり前。 その上で、どうやって
違いを尊重しながらやっていくか。本書はそのために知ること、必要なことを
中学生の男子とともに学べるのです。中高生はもちろん、その親達にもぜひ読んで
もらいたいノンフィクションです。

にほんブログ村 本ブログへ