ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

人生の崖っぷちで土を耕す

農ガール、農ライフ 』の

イラストブックレビューです。

 

 

沢久美子、三十二歳。派遣切りに遭ったその日、同棲相手から「結婚したい人が
いるから出て行ってくれ」と告げられる。テレビで見た「農業女子」に、自分が
進むべき道はコレだ!と感じ、早速田舎に引っ越し、農業目指すべく動き始めるのだが…。

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大学時代のツテをたどり、何とか安アパートを確保。週末数回にわたって開催される
大学の農業講座に通い、野菜づくりの知識を学んだ久美子はいよいよ農業をはじめようと、農地を探しはじめます。しかし、作物の種類に制限があったり、単身者ましてや女性には無理なので、結婚してからにしてくれ、と言われたり。ようやく貸してくれる人が現れたと思ったら、そこは日当たりが悪い、平地でないなど、めちゃくちゃ条件が
悪い畑だったり。

女性の晩婚化や、生涯独身者も珍しくなくなった昨今で、結婚していなければダメだ
などと、昭和の感覚が残る農業界にカルチャーショックを受けます。しかも女性一人では社会的に一人前とみなされないと言った差別もされているように感じます。 ただ、
これにはなるべくしてそうなってしまったという背景があるのです。費用と手間の割に
利益がとても低く、単身者にはとてもじゃないがやっていけないだろうという経験者たちの思いがそこには含まれています。

苗、肥料、ビニールシートなど初期費用がかかり、販売したうえで利益を出すには
それなりの面積で、一定量の作物を作ることが必要です。この物語の中では、久美子は
広大な敷地内で作付けを行っています。土を耕し、種をまき、苗を植え付け、施肥をし、支柱を立て、病害虫防除をし、収穫。畝をいくつも作り、少しずつ時期をずらして収穫できるように、事前の計画は入念に立てます。

そうして丹精込めて育った野菜達を販売するための販路を開拓するに一苦労です。
久美子は、バイトしていたスーパーに置いてもらったり、圧倒的な購読者数を持つ
先輩のブログなどで紹介してもらい、購入希望者を獲得。それでも、発送料などが
かかることもあり、利益はほんのわずか。

農業という仕事が、手間とお金を総動員しても利益があまり出ないという事実が
三十二歳の女性の立場と体力でもってリアルに描かれています。ただ、久美子の
今まで生きてきた「勤勉」「真面目」と言った部分が、農業への情熱を絶やさずに
いることができるようです。

最初から利益を追求しようとしたわけではなく、野菜を育てて暮らしていきたい。
久美子の最初願いは、そんなシンプルなものです。だから、生きていくのはカツカツ
だし、まだまだ工夫は必要だけれど、どうしたら良い野菜を作れるのかを考え、
記録し、研究していくのが楽しくなっていきます。途中、婚活してみたりもしますが
野菜を作っていくぞ!という意思はブレない。それって、最初からある程度のリスクを
想像して、いいとこばかり見て理想を追いかけているわけではない。超現実的であり、
だからこそ自分の希望する生き方を達成できる人だとも言えます。

農業をずっとやってきた人にしてみれば、新参者が「ちょっとやってみた、飽きちゃったからやーめた」というのが一番困るものです。知識がなければ、畑を荒らしたりもしてしまいますし。自分がやったことのないジャンルに飛び込むのであれば、そのジャンルに敬意と情熱を持って取り組むこと。それが大切なんだということを久美子の行動は
教えてくれます。

つらいこともあるけれど、その中に作物の成長や実りの喜びが農業にはある。
そんなことに気づいた久美子はもしかしたら旦那さんとか必要ないと感じるんじゃ?
とも思いますが、外から見たら魅力が増しているからモテるのも頷けるなと。
おいしいものを作る人は、その人間の中身にも情熱が詰まっていて、そのオーラが
滲み出ているものなのかもしれませんね。農業女子に幸あれ!

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