『君の××を消してあげるよ 』の
イラストブックレビューです。
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- 作者: 悠木シュン
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2019/05/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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バトン部に所属する中学三年生の小笠原幸は、最後のコンクールを控えた時期に
退部を決意。その本当の理由は、教師にも親友にも話せない四年前の出来事に
あった。
地元テレビ局の取材が入る予定もあり、部に留まるよう顧問の教師からも説得
されますが、幸の決意は固く、気持ちは変わりません。そしてクラスメイトで
クラゲと呼ばれている海月慶人がカツアゲされている現場に踏み入ったことを
きっかけに、幸はクラゲと会話を交わすようになります。そして、クラゲは
どうやら秘密にしていた幸の過去を知っているようなのです。
顧問である女性教師のできちゃった婚に不快感を示し、親友の片想いに当惑する幸。
正義感が強く、まっすぐな性格で、思ったことはすぐに発言するし、行動もする
タイプ。でも胸に抱え続けているのは過去に起こったある出来事。
自分を生んだ母が去った今は、その過去を知る者は自分だけで、一生表に出さずに
抱えていくべきだ。そんな風に考えている幸の過去とはいったいどんなものなので
しょうか。
そして、地元の街中に少しずつ増えていく「殺」の文字。
これはいったい、誰に向けたモノなのか。
カツアゲの件から、幸に話しかけてくるようになったクラゲがつぶやいている
「非表示」という言葉。それは何を意味するのか。
少しずつクラゲとの距離が近くなっていく幸は、クラゲから部活に戻れるように
してあげる、と言われます。そのための作戦を告げられるのですが、その内容がまたね、
なかなかすごいです。地味に登場した割にはやるな、クラゲ。何者だ?と言いたく
なります。そう、クラゲが何者か、というのもポイントなのです。
少年少女の好奇心と危うげな行動、親友の恋心を理解できないもどかしさや苛立ちが
文面から漂ってきます。衝動的な行動を起こしながらも、そんな自分を冷静に分析する
面も持っている幸。彼女は、過去の出来事を「消したい」と感じているのかもしれません。
嫌な出来事をなかったことにするのは、一時期は楽になるでしょう。しかし、やはり
起こったことを消すことはできません。消せないのであれば良い出来事を上書きして
いけば良いのです。そして、それは生きているからこそできるのだ、ということをこの
物語は教えてくれるのです。
そういえば自分も中高生の頃(いや大人になっても)、死ぬほど消したいと思うアレや
コレがあったなあ。でも年を重ねたからこそ、それを上回る多くの経験ができて、上書きできたなと。さらに歳とると忘れてしまっていつのまにか消えていることもあるよ、と若い世代にその経験を伝えることができるかも。ふとそんなことを思ったのでした。