ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

瀬尾さんの手にかかると家族エッセイも物語風味に

ファミリーデイズ』の

イラストブックレビューです。

 

 

中学校の教師を務めてきた著者は40歳を目前にして予定外の妊娠&出産。やんちゃで元気いっぱいの娘、のんきでマイペースな夫とともに送る日々の生活や、かつての教え子や恩師たちとの交流を描く、心がほっこりと温かくなる家族エッセイ。

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結婚式では感動しきりの夫が涙を流し、横では新妻が教壇に立つ教師のごとく、場を取り仕切った挨拶をする。結婚してからは夫の朝の過ごし方に驚き、誕生した娘の成長に目を細め、時に不安にかられてネットで情報を探しまくる…。

あたたかな心の交流を書かせたら天下一品の瀬尾さんの、はじめてのエッセイです。
のんびりとした旦那さんと、教師としてテキパキする瀬尾さんの対照ぶり、加えてどちらに似たのか?というほど片時もじっとせずに精力的に動き回る娘さんの三人家族をいきいきと描きます。力の抜けた文体でありながら、人物それぞれがくっきりとした形を持って存在していて、彼らの鼓動や息遣い、熱量まで感じられるようです。

ナチュラルに過ごしているのになんだかおかしなことになっていて、クスリと笑ってしまうエピソードが散りばめられ、笑って心のガードが緩んだところに、目元がうるっときてしまうようなエピソードがスッと入ってきます。これはもう、物語の様相を呈していますね。それがちっとも嫌な感じがしないのは、瀬尾さんの、家族という近しい存在をじっくりと眺めているのに、一歩引いたようなフラットな視点を感じるからでしょうか。それでいて、冷たくなく、包み込むような広さと温かさを感じるという。

教師をしていた瀬尾さんならではの、教壇の上から生徒たちを眺めている、そんな目線なのかもしれません。生徒たる中学生への愛情もハンパないです。自分にとっては中学生とは自分自身の当時の記憶を含め「メンドくさい」イメージが大きいですが(もちろん可愛い部分もあるけれども)瀬尾さんは違います。不完全で不安定な彼らのちょっとした変化を、喜び慈しんでいるのです。

なんというか、人間というものが好きな作家さんであるのだなということをつくづくと
感じます。今日という日を見つめていると、昨日と異なる変化に気づく。子供はそうした変化が著しく、それが成長なのであり、著者が喜びや楽しみを感じる部分なのでしょう。

まっすぐと加速する子供の変化、緩やかな大人の変化、そしてそれそれが変化した上で
重なっていくグラデーションが、心地よく読む者に浸透していくのです。はじめての子育てでテンパり不安と緊張でトゲトゲしていた自分、自分の価値観を押し付けてくる大人にイラついていた中学生の自分に対して、いいんだよ、と頭をなでられているような、隣でニコニコと見守ってくれているような、そんな気持ちにさせてくれる文章です。

いい年になったおばちゃんの、そんな素直な部分を引き出してくれるとは、やはり凄腕の中学校の先生、いや、作家さんです。軽い読み心地ではありますが、笑いあり、涙あり、じっと余韻を楽しみたくなるような胸の震えありの、まるで物語のような一冊です。

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