ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

近代文学への造詣と愛を深く感じる論文のような物語

太宰治の辞書』の

イラストブックレビューです。

 

みさき書房の編集者として働く私は太宰治の女生徒の謎に出会う。
太宰はロココ料理で何を伝えようとしたのか?
円紫さんの言葉に導かれ、私は謎を探る旅に出る。

f:id:nukoco:20180622230523j:plain

十七年ぶりのシリーズ最新作が登場です。
十七年ぶりとは!!この円紫さんと私シリーズは全巻持って
おりますが、もう内容もおぼろげ…。
女子大生と落語家の円紫さんが、日常の謎を解く、といった
お話ですが、その全体に漂う優しさと清らかな空気感が
印象に残っています。

その女子大学生だった私も、今や夫と中学生の息子がいます。
円紫さんも、落語は円熟味を増し、頭髪には白いものが混じって
きているけれども、それがまたいい味となっていると。
そんな二人が出会う太宰治の『女生徒』の謎とは。

1つの文学作品のキーワードから、また別の作家や文学作品に
思いが飛んでいく。本好きさんあるあるとおもいますが、とにかく
今回はその量がものすごいです。今回は太宰治が主なテーマですが
それ以外にも古典、近代などもうあらゆる作品がてんこ盛りに
登場します。

そに時代背景や、対談エピソードなんかもあり、楽しめるのですが
ちょっと頭が疲れていると染み込みにくいかも。
しかし、学生時代に日本文学を学んだくせに古典や近代文学が苦手という
(じゃあいったい何を勉強してたんだっていうのはさておいて)
自分にとって、作家の生きた背景や、その作品が出来上がっていく
状況を垣間見えることはとても楽しくものです。教科書に載っている
しかめ面しか見た事がない作たちの新しい一面を覗き見れたようで、
ワクワクします。

また、文学ガイドとしての側面も持っていると思います。。
芥川も太宰も「めんどくさいヤツらだな」という印象で(失礼ですが)
サラリと表面しか読んでこなかったのですが、本書では、その表現や
テクニックがこのように優れているのだ、と解説してくれています。

実際に作品も一部引用しているため、そのガイドに基づいて読んで
みれば、なるほどここがいいのか、と納得。もちろん違う見方も
あるとは思いますが、1つの読み方として充分参考になります。
特に苦手意識を持っている人には、新たな視点を得ることができるのでは
ないでしょうか。

古典から近代までその作品時代背景や作家の状況、そして本に
対する思い。頭の中から、目から、手から、物語を作り出す人、
本を作り出す人、本を手にする人、あらゆ状況と人に対して
深い愛を持つ著者の思いを、読者に伝えてくれる物語です。