ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

「生類憐れみの令」に隠された真意とは

最悪の将軍』の

イラストブックレビューです。

 

 

生類憐れみの令を制定したことにより「犬公方」と呼ばれ、その悪名が今に語り継がれる徳川の五代将軍綱吉。その真の人間像とはどんなものであったのか。諸藩の紛争、赤穂浪士の討ち入り、大地震、富士山の噴火。次々と降りかかる災難に立ち向かう男の生涯を描く。

f:id:nukoco:20200126081840j:plain

 

教科書に載っている徳川綱吉。生類憐れみの令を制定し、犬猫を粗末に扱うとたちまち
重罪というムチャな法律を作って施行した将軍というイメージがあります。そんな生類
憐れみの令が生まれた背景はどのようなものだったのか、徳川五代目ともなる当時の世の中の様子、そして、綱吉本人はどのような人物であったのかを描く物語です。

綱吉は4代目将軍家綱の弟に当たります。次代将軍は甲府藩主である松平綱豊が有力と
されていました。やがて家綱が病のため身罷り、次の将軍を決める話し合いの中で、思いがけず綱吉を将軍に、という話が持ち上がります。

当時は病弱な家綱のもと、家臣たちが采配を振るいはじめ、己の思うままに国を動かし
ていました。そんな中、国の先行きを心配した新参の老中、堀田が綱吉を将軍に、と
発言します。病床の家綱からの書も受けていると。武よりも文を得意とする綱吉に、
国を治めるには力不足とそしる老中たちに、水戸藩主の光圀公がピシャリ。 その場を
収め、綱吉が次代の将軍となることが認められます。

綱吉は、先代将軍が亡くなった後の喪に服す期間を、それまでの慣例よりも長い期間を
設けたことをはじめとして、次々と「これまでのやり方」を変えていきます。例えば、
それまで交代制としていた役人の仕事も専任制としました。そうすることで一連の流れが良くわかり、責任感も生まれ、新たな対策を講じやすいというメリットがありました。以前は、ある程度の期間を過ぎると交代してしまい、引き継ぎがうまくいかなかったり、この期間までやればいい、という無責任な考えをするものが多かったのです。

その中でできたのが生類憐れみの令です。徳川の時代になってから、戦は無くなりまし
たが、親が子を捨てる、子が親を捨てる、そして職を失った浪人たちが人を斬る、など
といった事態が後を絶ちませんでした。人の命が軽過ぎる。綱吉はそのことを問題視し、生きるもの全ての命を大切にするべきだとして、生類憐れみの令を制定したのです。

プライベートでも子供のために犬を飼い、子が犬を可愛がる様子を見て目を細めている
綱吉は、妻と子供を愛する良き父親でした。正室の信子、側室の伝、そして綱吉の母、
桂昌院との関係はとても良く、風通しの良い間柄であったようです。特に、頭の回転が
速い信子との会話を、綱吉は楽しんだようです。

綱吉が五代将軍となってからは、夫婦はそれまでのように頻繁に会話を交わすことは無くなりますが、折に触れ将軍の様子を気遣う信子もまた、綱吉の意図を汲み取り、新しい大奥を築いていきます。天真爛漫な義母、桂昌院とのやりとりも、信子の知性と気遣いが的確で安心して見ていられます。タイプは違いますが、どちらの女性も魅力的です。

綱吉は穢れを嫌い、清くあろうとした人間です。時に厳しく、周囲にも同じように清く
あるように求めてきました。そのことが横暴であるとか、一方的であるというように
伝わるのは、その真意が末端まで達していなかったからのようです。勤めるうちに腹心の臣下を失い、仕事上での真意を言い合う相手がいなくなるという孤独の中で、ひたすらに国全体へ目を向けていたのです。

一方で、外国人を城に招き、気の利いたやりとりをして見せたりもします。未知のものを排除するのではなく、好奇心を持って、良いものは得ていこうという貪欲な部分見せたりすることも。真面目で固いばかりではないのだな、と意外な一面をみせてくれたりもします。

綱吉の時代には、諸藩の紛争、赤穂浪士の討ち入り、地震、富士山の噴火など世の中に
厄災が多く起こりました。その対処を見る限り、温情なくバッサリだなと思う部分もありますが、今後同じようなことが起きないように断ち切る、という意図を知れば、適切であったことがわかります。世間に伝わるのはその「バッサリ」の部分だけなのですが。そして災害に対しては、できうる限りの対策を講じています。

「最悪の将軍」と呼ばれた男は、誰に何と言われようが構わずに、民を守るということに心血を注ぎ、強い覚悟を持って江戸の礎の一部を作った人物でした。教科書からは見えてこない、時代の一部を築いた人物の生き様から、国を統べることの視点や心の有り様が見えてくる瞠目の物語です。

にほんブログ村 本ブログへ