ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

大事な「家族」の悩みを解決。江戸の『けもの医』物語。

お江戸けもの医毛玉堂』の

イラストブックレビューです。

編集

 

腕は確かだが、無愛想なけもの医者・凌雲と、しっかり者のお美津の夫婦が営む
けもの専門の養生所「毛玉堂」には、今日も問題を抱えた動物たちがやってくる。
ある日、お美津の友人お仙から、八歳の少年善次の世話を頼まれて、面倒を見る
ことになるのだが。人と動物の、理解しようと心を寄せるあたたかな絆を描く物語。

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夜になると、突然襲いかかるようになった猫。
耳の後ろにハゲができてしまったウサギ。
飼い主夫婦に赤ん坊が生まれてから粗相をするようになってしまった犬。

江戸の時代もペットを可愛がる飼い主の気持ちはみな同じ。大事にしながら、共に
暮らして来たというのに、問題を起こすようになってしまった動物たち。病気なのか、
ストレスなのか…。飼い主である人間に害を及ぼすようになっては、一緒に暮らす
ことも難しいのでは…。

悩める飼い主たちは、動物のお医者さんである凌雲に相談します。かつて人間の
病や怪我を見ていて、名医と言われた凌雲。動物たちの見立ても簡潔で鋭く、観点は
あくまでも動物の立場に立ったもの。動物は、人間の言葉や常識を理解するわけでは
ない。だから人間の考えを押し付けるものではない、と主張します。

動物に対するしつけや、良かれと思っていた飼い主の行為は、結局は飼い主の自己満足
のためだったのでは。そんな解釈に、現代人の我々にもハッとさせられるものがあります。動物は動物として生まれ、本来であれば仲間と共に自然の中で生きていくところを、縁があって人間と暮らすことになったのです。ですから、動物が望むような環境にしてあげて、彼らが心地よく過ごせるようにしてあげるのが人間のすべきことなのではないか。そんな凌雲の言葉は、この現代ペットと暮らす私たちにも、そのあり方について改めて考えさせられるのです。

そうした動物たちとのやりとりを中心に、お美津が抱える凌雲との距離感についての
悩み、チャキチャキ美人だけど思いを寄せる男性には弱いお仙、事情がありそうな
八歳の男の子善次など、それぞれの登場人物たちが主役脇役関係なしに、生き生きと、
くっきりとした輪郭を持って動き回ります。

彼ら登場人物たちの一人一人が懸命に、自分のやるべき事を全うしようと真摯に
生きる姿、そして人が人を、人が動物を、そしてまた動物が人を思い合うその姿に胸が
熱くなります。動物の問題も、人の問題も、すべて関わる人間次第。相手を理解して
いるのだと過信することなく、一方的に思い込むことなく、誠意を持って付き合って
いきたい。そんな風に感じる物語でした。

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