ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

自然界と人間界を生きたオオカミの数奇な生涯

白い牙 』の

イラストブックレビューです。

編集

 

半分イヌの血が混じった牝オオカミと、片目の雄オオカミの間に生まれた
ホワイト・ファング(白い牙)と呼ばれた灰色オオカミ。厳しい自然界で数々の
洗礼を受け、人間のもとで生きることになったファングの数奇な運命を描く。

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ゴールドラッシュの時代、北の原野を舞台に描く、孤独な灰色オオカミの生涯。
まずは、2人の男が、1人の男の死体を抱えて雪野原を進むシーンから始まります。
亡くなった人物を街まで届ける事を請け負った彼らは、6匹の犬にソリを
引かせて進んでいました。しかし、そのソリをひいていた犬が日を追うごとに1匹、
また1匹といなくなっていきます。どうやら餓えたオオカミの群れが彼らを狙ってついて
きていて、夜の間に一匹ずつオオカミたちの犠牲になっていたようなのです。

一定の距離を保っていたオオカミたちが徐々にその距離を縮めてきます。
火を起こしていれば近づいてきませんが、火が弱った瞬間に、すぐ目の前まで
来ていることも。そしてついには男の1人が犠牲になります。
残された1人は危ういところで助けられるのですが、オオカミたちはやみくもに
襲いかかるのではなく、注意深く人間の様子を伺い、弱るのを待つという
用心深さと賢さ、そして忍耐強さを持ち合わせていることがよく分かります。

そうした特性を持ち合わせているオオカミが、自然界で生まれ育ち、成長
していく姿が生き生きとした描写で書かれています。北米の、決して豊かとは
いえない自然環境の中で、母オオカミに守られながら、好奇心いっぱいに
成長していくファングは、エサを獲る事を覚え、生と死の観念を覚えます。

インディアンに捕まってしまったファングと母オオカミ。
そこでファングは人間の手から生まれる様々なものに驚き、畏れを感じます。
インディアンたちは多くのイヌを飼っていましたが、そのイヌたちにケンカを
仕掛けられ、戦いを覚えたファング。それでもイヌたちと交わることは決して
ありませんでした。

常に戦闘態勢でいるファングは、ある白人に闘犬として買われていき、そして
さらに別の豊かな白人の元へと引き取られていきます。
そこで初めてファングは人への信頼を感じ取ることができたのです。
インディアンの男は正しいが厳しく、悪い事をすれば容赦なくファングを傷つける。
そして、闘犬としてファングを飼っていた男とは全く信頼らしきものはなかったのです。

オオカミとして生まれ育った野生の血と、後から身につけた人間への畏怖や
信頼する気持ち。無意識に身についた本能は、不意に出てしまうこともあります。
インディアンの中にいるときには、飼い主の男がファングを守りました。
二番目の飼い主は、その闘志を利用して、ファングを賭け事に利用していました。

そして三番目の飼い主は。二番目の飼い主から守るように引き取ったこの飼い主に
ファングは初めて人間を信用した、と言えるのかもしれません。
それまで、懸命に野生をねじ伏せて人間に従っていたのが、自然と飼い主へと
鼻をすり寄せるようになったのです。それもファング自身の自覚なしに。

最後の飼い主の家でも、初めから家族に受け入れられた訳ではありませんが、
飼い主への厚い信頼関係をベースに、この家族のために生きて来たことが
周囲からも信頼を得ることになり、次第に皆に受け入れられていくファングの姿に、
思わず目頭が熱くなってしまいます。

動物の世界から、人間界に引き込まれてしまったファング。
人間のエゴによってその運命を狂わされてしまった、と言えるかもしれません。
しかし、他のオオカミでは決して得ることのなかった「信頼」を得ることが
できたファングは、不幸だけではなかったのではない、と思いたい。
そんな考えも人間のエゴなのかもしれませんが。

雄大な自然界の様子、肉食動物の生き様、そして北米での人間と動物の
関係。それは経験したことのない世界を私たちに見せてくれると同時に、
深い感動を与えてくれるのです。

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