ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

猫による、猫のための喫茶店!?

黒猫王子の喫茶店 お客様は猫様です』の

イラストブックレビューです。

 

出版社で働いていた胡桃は、会社をクビになり、新たな仕事先も見つからず崖っぷちの
生活。やっと見つけたのは、住み込み可のシックな喫茶店
店長は着物姿も粋な美青年なのだが、彼はなんと胡桃が助けた黒猫だった!?
小江戸川越を舞台に繰り広げられる、人情(猫情?)味溢れる物語。

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仕事が見つからないまま失業手当も使い切り、ギリギリの生活で困っていた胡桃は、川に流されているダンボールの中に、黒猫が入っているのを見つけます。猫なんて助けている場合では…とは思ったものの、やは見捨てられず、川に入って猫を助け出します。

無事に助け出したはいいけれど、全身ずぶ濡れで途方にくれていた胡桃。そんな彼女に
声をかけてくれたのは、上品なおばあさん。彼女がやっているという喫茶店に連れていってくれました。この喫茶店では店長を募集しているというのです。これはチャンスでは!と考える胡桃でしたが、日を改めて訪れればすでに別の人間が店長になっていました。それはなんと人間に化けた黒猫、ポウ。彼は、強烈な毒舌と麗しい見た目の持ち主だったのです。

黒猫ポウが人間に化けるのは夜。そして、人間に触れられると猫の姿に戻ってしまいます。人間から猫の姿に戻る時は小さくなっていくので、それまで着ていた服と猫がその場に残る状態です。また時間がたてば人間の姿に戻るわけですが、戻った瞬間は当然すっぽんぽんな訳です。その状態で胡桃にあれこれ話しかけるのがなんともシュールでおかしい。

茶店は、ポウが人間の姿になれる夜だけの営業。そしてやってくるお客も猫。
同じように、人間に化けることができる猫たちがやってきます。たとえば、着物姿の癒し系男子、まげ太は三毛猫のオス。白人、銀髪、緑色の瞳のワイルド系イケメン、ユーリはロシアンブルーなど。どれもこれも個性溢れるイケメンたちです。猫が人間になったとしたら、イケメンか美女なんだろうなあというのは何だか頷けます。

人間の姿になっても猫は猫。その会話が猫基準であるところも笑いを誘います。
茶店で副店長として、住み込みで働くことになった胡桃は、デパートへ毛布を買いに
出かけます。ポウとまげ太もいっしょにきたのですが、その時の会話がすごい。

「こんな高いものを買う必要はない。寒かったら、俺を抱いて寝ればいい」
「拙者も一緒に寝たいでござる。抱き心地には自信があるでござる」
「ふざけるな。おれのほうが手触りがいい」

イケメン二人が、ひとりの女性を挟んでこんな会話をしていたらびっくりしますよね。
猫が喋ってると思えばまあ納得なんですが。間に挟まれた胡桃は、お人好しが取り柄の
ごく普通の女性なのでちょっと可哀想。いくら説得しても人間の常識はお構い無しの
猫たちに、もはやどうにでもなれ!と、「イケメン二人を転がす見た目普通のオンナ」
という世間からの誤解を解くことを諦めたようです。

こうした化け猫たちと関わっているおかげか、猫の言葉を理解するようになった胡桃は、その評判を聞きつけた飼い主の人たちから、猫についての相談を受けたりしています。その内容からは、猫への思い、飼い主への思いが強いために、起こってしまったトラブルがほとんどです。

猫も人間も生きていれば環境も状況も変わっていきます。それでも縁あってともに暮らすようになった関係。いつまでも、どんな状況でも相手と一緒にいたい。そんな互いを思う気持ちが溢れ、そしてコミカルな会話で笑いを提供する、緩急のリズムも楽しい物語です。

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