ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

思いやりでつながるステキな他人の関係

大家さんと僕これから』の

イラストブックレビューです。

 

初めて出した単行本が大ヒットとなり、一躍時の人となったぼく。
忙しい日々を送るなかで大家さんとの楽しい日々には少しの翳りが見えてきて…。
感動の物語、堂々完結。

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トホホな芸人、カラテカ矢部さんと80代の大家さんとのほっこりとした日常を描いた
「大家さんと僕」の続編。大家さんからのおすそ分けは鮎とともに魚焼きの網が、肉まんとともに蒸し器がセットでついてくる、そんな大家さんは電子レンジが苦手なんだとか。何でも過去に爆発したことがあるんだそうで・・・(汗)。

高齢でありながら、丁寧な暮らしぶりの大家さんからは、学ぶことがたくさんあります。電子レンジは使わない、など身の回りのことから戦時中のことまで、淡々と大家さんは語ります。疎開先での出来事、玉音放送を聞いたときのこと。空襲があったために部屋の明かりはごくわずかなものにしていたこと。

そして、フロア配置が完璧に頭に入っているほどに利用している伊勢丹。上品でお金持ちな大家さんだから利用されているのかなと思っていたのですが、伊勢丹は大家さんが5歳のときにオープンして、17歳の終戦GHQに接収され、25歳の時に戻ったのだそうです。華やかで訪れるだけでも楽しめる伊勢丹は、大家さんの歴史とともに存在しているのです。人の人生に寄り添う伊勢丹。ファッションの最先端発信基地というこれまでの観点とはまた違った目で見えてくるようです。

矢部さんの後輩で、大家さんのお庭の草刈り要員であるのちゃーんさんもイイ味出して
います。ウェイウェイ系で意味不明な言葉を発しているのですが、草刈りの仕事ぶりは丁寧で、なぜか大家さんとも話が合うという。矢部さんのオロオロとしたツッコミももろともせず、ノリで会話を進める。そんなのちゃーんさんに嫉妬したりする矢部さんも素直でかわいいですね。

豆まきや季節の行事を楽しんだり、時には外で食事をして昔の話を聞いたり。互いの友人達と交流したり。おすそ分けをいただいたり。大家さんと矢部さんの、ゆっくりとした、あたたかでやさしい時間に胸が暖かくなります。しかし、そんな時間も翳りが見えてきて。

大家さんが亡くなられ、その後のお話も掲載されています。大家さんが語るお話を
矢部さんが描くと、とても詩的に、言葉にできない感覚が画面の中に現れているように感じます。一作目に比べて、その間合い、テンポがより洗練されていて、2人のやりとりがじんわりと胸に染み込んでいくようです。

他人同士でありながら、思いやりでつながる2人の関係は、多くの人の心に灯をともしてくれました。一人の女性が歩んできた道を、あたたかで素直な目線で、戸惑ったり感動しながら矢部さんが描き、読者は大家さんの人生を通して、その道を見ることができ、今の恵まれた時代を改めて実感するのです。今の時代を生きていること、ステキな二人の関係を知ることが出来たこと、いろんなことに感謝したくなるコミックエッセイです。

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