ラストに驚くミステリーは数多く存在すると思いますが、あるキーワードが共通する
ミステリーを紹介したいと思います。そのキーワードとは「男と女」。
その性が話の重要なポイントとなるのです。
まずはこちらです。
本屋で働くスタッフたちが、日常の業務をこなしつつ、本屋さんに持ち込まれた奇妙な
謎を解いていきます。彼女から送られてきた本のラインナップの謎、盗まれた作家の
サイン本、落書きされた作家のサイン入りポスターの謎。
品出し、発注、レジ対応、フェア準備にポップ書きから万引き対応。
そして版元、取次と地方の小さな書店との関係、出版業界全体を巡る現状が物語を通して
非常にわかりやすく伝わってきます。本屋さんと謎は相性が良いのか、次から次へと
面白そうな謎が登場し、そして気がつくと姿が見えなくなっている店長が、鮮やかに
解決していきます。
万引き犯見逃しから始まり、どんどん雰囲気が悪くなっていく本屋さん。ある日、
脅迫メールがスタッフたちに届き、心配になって店を見に来たスタッフたちが目にした
状況と、本屋に危害を加えようとした犯人とは。
その犯人に思わず「あっ!?」と声が出てしまいます。それで、もう一度最初から
読み返してしまうのです。犯人自体にめぼしがついていた読者も、その正体には
意表をつかれるのではないでしょうか。性別への先入観がカムフラージュとなって
真実にフィルターをかけている物語です。
続きましてはこちらです。
旅先で、増水した川の水に足を取られたところを助けてもらった紀子は、助けて
くれた男・晃二と一晩を共に過ごす。翌朝彼の姿はなく、近隣の住民に話を聞くと、
彼はひと月前に毒殺されたという。では、昨夜共に過ごした男はいったい誰だった
のか。そして、晃二はなぜ殺されたのか。
紀子と晃二が過ごした、薄暗い室内で過ごす夜。ダムの工事により沈んでいく村での、
最後の祭り。仄暗い闇と、決して華美ではないけれども、自然と溶け込んだ祭りの
景色が美しく、重厚な空気が漂います。
いくつものシーンや謎が存在し、それらがパズルのピースがはまるように少しずつ
空白を埋めていき、最後にはピタリと絵図が完成するのは見事です。
しかし驚くのはそのラスト。これも読後にはじめからまた読み返してしまうタイプの
本ですね。『レジまでの推理』と同じく、性別に関係があります。物語全体の描写が
とても雰囲気があって、空気にまで重みを感じる世界観なので、個人的にはこのラストはありなんじゃないかなと思っています。ミステリーでありながら、どこかファンタジーでもある、陰を帯びた美しいミステリーです。
「男と女」に対して、我々は多くの先入観を持っています。その思い込みを利用して
読者を上手に騙せるかどうかは筆者の腕次第、というところでしょう。
上記の2作は、そんな騙しのテクニックもさることながら、書店の現状やスタッフの情熱、または男女間の恋愛やダムに沈んでいく村の悲哀など、そうした話の柱がしっかりとできているからこそ、ラストの意外性が生きていくのです。
「男と女」の問題については自信がある方も、そうでない方にも楽しめるミステリたちです。
※このコラムは『シミルボン』に掲載したものです。