ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

私を呼ぶ美女たち

「一目惚れ」最高の表紙はこれで決まり!

美しいものが好きです。絵や宝石、景色などいろいろ興味はありますが、特に美しい
女性は大好き。じっくりと眺めていると幸せな気分になります。美女って、ハッピーを
与えてくれる存在なんですねえ。

そんな美女好きな私は、書店で見かけるさまざまな美女にあれこれと手を伸ばします。
平積みのコーナーであれば、写真、イラストなどさまざまな表紙を一度に
見ることができますが、美女の顔がどーんと出てくる本には引き寄せられます。
あんな美女やこんな美女、どれも選びたい放題ですよ。素晴らしきかな書店。
それでは書店で出会って我が家に連れて帰ってきた美女たちをご紹介します。

 

傷痕

傷痕著者: 桜庭 一樹

出版社:文藝春秋

発行年:2019

Reader StoreブックパスAmazon

 

50代にして亡くなった某アメリカンポップスターを彷彿とさせるお話です。
子供の頃から兄弟と共演し、成長してからは一人で、世界的カリスマ歌手となって
いったキング・オブ・ポップスターと言われた男。その彼の生涯を、姉や娘、
記者やボディガードなどの周囲の人間が語ります。

表紙の仮面を持った少女の、その瞳に吸い込まれそうになります。少女は、
「傷痕」という名のスターの十一歳の娘。廃校となった小学校の跡地に建てた、
遊園地や動物園も併設されている場所で、万全のセキュリティ体制のもとで
育てられているのです。

スターである父親を亡くした少女の胸のうちはどのようなものなのでしょうか。
世間から遠慮なく押し付けられる推測や揶揄、憧れと沸き立つ興奮。常にそんな
中に晒されてきたスターのカリスマ性と内面は、彼を見る者の心のあり方によって、
その印象は変わるのです。

限られた空間で過ごしてきた父と娘。少女の、幼いながらも老成したような、
何もかも受け入れ、飲み込んでいってしまうような瞳に、スターという呪いを
かけられた諦めや悲しみのようなものを感じるのです。

 

月の影影の海 上

月の影影の海 上著者: 小野 不由美

出版社:新潮社

発行年:2012

Amazon

 

 

月の影影の海 下

月の影影の海 下著者: 小野 不由美

出版社:新潮社

発行年:2012

Amazon

 

十二国記シリーズ、本編の一作目です。女子高生の陽子のもとに、ケイキと名乗る
男が現れ、地図のない異界へと彼女を連れ去ります。途中でケイキとはぐれてしまった
陽子は出会う者に裏切られ、異形の獣に襲われます。何のために闘うのか。
なぜ生きるのか。その答えは大きな決断へとつながっていたのです。

表紙の赤毛の美女は、主人公の陽子です。訳の分からぬままに異世界に連れて来られて、危険な目にあったり、人に裏切られたりしてダメージを受けまくっています。
何度もくじけそうになりながら、前に進んでいくうちに、闘うべきものは自分の中に
あることに気づくのです。

陽子は最初から強いわけではありません。それが、トラブルを乗り越えていくにつれ、
甘えていた自分に気づき、そして使命を全うすべく意識が変化していくのです。
そうした決意や覚悟が表紙の表情から漂ってくるのです。強さを感じる美しさですね。
下巻の刀を構えたポーズと表情も素敵です。

 

髪結百花

髪結百花著者: 泉 ゆたか

出版社:KADOKAWA

発行年:2018

Reader StoreブックパスAmazon

 

吉原で髪結として働く梅は、元夫を遊女に寝取られた過去を持っています。遊女たちと
距離を縮められない梅ですが、禿の少女タエや、花魁の紀ノ川らと接するうちに髪結と
しての仕事への喜びと達成感を高めていきます。江戸の吉原を舞台に、 女たちの生き様を描いた物語です。

この表紙は発刊前に、泉ゆたかさんのツイッターで知ったのですが「わあ綺麗だな!」
というのが第一印象でした。抜けるような白い肌、大きく抜いた色っぽい襟元。
花魁特有の髪型と髪飾りで華やかですが、眉間にぱらりと落ちるわずかな髪が、また
妖艶な印象です。あんまり綺麗なんで装画を手がけた山科理恵さんの個展にも行って
きました。どれも素敵で、全部ソールドアウトでした。さすが…。

物語は、吉原を舞台に遊女という世界の閉塞感や、彼女達の哀しみや喜びを描きます。梅は髪を結うことで、彼女たちの体調を知り、心の動きを理解していきます。厳しい世界で生きて行くために懸命となる彼女たち。彼女たちの熱が、文章から伝わってくるようです。

表紙の美女は、花魁の紀ノ川。生きて目の前に現れたら完全に魂を抜かれてしまうだろうなあと思う美女ぶりです。自分が男に生まれていたら、破産するほどつぎこんでしまうかも…。

表紙は彼女たちのほんの一面を表に出しているのだけれど、物語を読むことによって、
その表情やポーズに改めて納得したり、この美女があんな風に喋ったり、あんなこと
したりするんだなあと想像する楽しさも味わえます。

振り向けば美女がいる。今日も美女との出会いを求めて書店へと繰り出すのです。

 

※このコラムは『シミルボン』に掲載したものです。

にほんブログ村 本ブログへ