ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

宝石箱の中にしまっておきたくなるような少女時代

ミーナの行進 

イラストブックレビューです。

編集

 

ミュンヘンオリンピックが開催された1972年、十二歳の少女、朋子は芦屋の
伯父の家で一年間世話になることになった。大きな家、広い庭、無口な伯母と
おしゃれなローザおばあさん。そして、1ひとつ年下の少女、ミーナ。
体が弱く、本をたくさん読み、博識なミーナと彼女たち一家を描く物語。

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母親の仕事の都合で、母の姉が嫁いだ芦屋の家に一年間暮らすことになった朋子。
着いたお屋敷は、広大な敷地と立派な洋館。驚いたことに、庭ではコビトカバ
飼育していました。なんでも数種類の動物を庭で飼育し、動物園として解放していた
時期があったのだと言います。

ダンディでスマート、話題も豊富で常に皆を笑顔にさせてくれる伯父、
普段はウイスキーを飲み、タバコを吸いながら、本やパンフレットなどの印刷物の
誤植を探して過ごす、静かな伯母。そしてドイツから嫁に来たという、おしゃれな
ローザおばあさん。そして伯父と伯母の娘であるミーナ。クォーターである彼女は
透けるような美しい肌と、ふわふわとした濃い茶色の髪を持つ十一歳の美少女でした。
そして、家を取り仕切る住み込みのお手伝いの米田さん、庭師の小林さんたちとともに
暮らした、一年間の物語です。

ヒットした清涼飲料水を手がける会社の社長である伯父。ドイツ出身のローザ
おばあさんのために、初代社長だったおじいさんが、ホームシックにならない
ようにと建てた洋館は、調度も外国のものを取り揃えて立派なものでした。

岡山のごく普通な一般家庭からやってきた十二歳の少女にとってはどれも新鮮な
驚きに満ちた世界です。そして、従姉妹のミーナ。歳の近い二人は意気投合します。
喘息を持っていて、体が弱いミーナは入院することも多く、活発に動き回ることも
できません。近くの小学校に通う時はなんと飼っているコビトカバのポチ子の背中に
乗って登校しているのです!ファンタジーだなあ。

朋子が感じる、ちょっと変わった一家の空気感。朋子を家族として包み込んでくれる
安心感。ミーナと語り合う将来のこと、あまり突っ込んだところは話さないけど、
何となく感じる恋のようなもの。一家が皆でカバのポチ子を可愛がる様子。皆で
ミーナを心配し、全力でサポートしようとするところ。

ミュンヘンオリンピックの中継で盛り上がったミーナとのバレーボールの練習。
ローザおばあさんが思いを馳せる生まれ故郷と、二度と会えなくなってしまった
おばあさんの双子の姉妹のこと。ローザおばあさんと米田さんが歌う、美しい
ハーモニー。無口な小林さんとポチ子の、心が通じ合っている雰囲気。

本物のモミの木が家の中に飾られ、ローザおばあさんがこの時ばかりは監督となって、
全員に指示を与えながら時間をかけて作るクリスマス料理の数々。

朋子が過ごした日々は柔らかな光に包まれ、美しい言葉で、綴られていきます。
小川洋子という作家は、静かで透明感があり、悲しみさえも割れた
ガラスのようにキラキラと輝いているような文章を書く方だなと感じます。

どれも穏やかな光に照らされた宝石のような、輝きに満ちた出来事。少女たちの
人生に大きな部分を占めた一年間であったことでしょう。知らないこともたくさん
あるけれど全力で生きて、全力で誰かを思い、そして自分も大切に思われている。
そんな事を感じさせてくれる物語です。

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