ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

何かが「いる」、何かが「ある」ところに住むということ

営繕かるかや怪異譚』の

イラストブックレビューです。

編集

 

ほとんど会ったことのない叔母から、古い町屋を受け継ぎ、そこで
暮らしはじめた祥子。使われていない奥座敷の襖が、何度閉めても
開いている。人ではない「何か」から助けてくれるのは「営繕かるかや」の
尾端という男なのだが。

f:id:nukoco:20190126170325j:plain

 

閉めても閉めても開く襖。建て付けが悪いのかと見てもらっても問題はない。
そのうち、開いた隙間から何か顔のようなものが見え、それが、そこから
出てこようとして…。

身の毛もよだつシチュエーションです。ここに住んでいた叔母さんも、その
「何か」の正体に怯え、一時期はその部屋を塞いでしまったとのこと。
しかし、そこから聞こえてくる物音がさらに頻繁に聞こえるようになったために、
封鎖を解き、以前と同じように襖を取り付けましたが、襖が開いた後にその
「何か」が入って来ないよう、箪笥を襖の前に置いていました。

そんな事情を知らなかった祥子が、おかしな場所にある箪笥を移動したところ
恐ろしい思いをしてしまったのです。正体不明の存在に怯える祥子のもとに
やって来たのは営繕屋の尾端という男。霊感などは全くないのだが、なぜか
こうした物件の修繕に呼ばれるのだそうです。

そして、彼はその「何か」の正体に想像を巡らせ、現在の住民とうまく
一緒に暮らせるように修繕を施すのです。特徴的なのは、その見えざる存在を
拒否するのではなく、そこにいるもの、として認め、その上で現在の住人と
折り合いがつけられるよう、ベストな状態に家屋を作り直していくのです。

住む人にとっては、気味が悪いから、とその場から逃げ出してしまうことも
選択の1つとしては考えられることです。しかし、縁があって住むことになった
場所が、手を加えてもらうことにより、住み続ける事ができたなら、
住む人にとっても喜ばしい事です。

そして、この物語に出てくる恐ろしげなものたちは、正体は明らかにならない
こともありますが、どうやら後から来た住人に敵意を抱いたものたちばかりでは
ないようなのです。そのものたちからしたら、もしかしたらこの住民たちが
これまでの暮らしを邪魔する存在、彼らを脅かす存在だあるのかもしれないのです。

正体不明のものと人間が100%理解し合うのは到底無理なこと。
しかし、相手の状況に想像を巡らせ、互いに少しずつ歩み寄り、共に存在することで
どちらも穏やかに生活する事は可能であるかもしれません。

物語に登場するのは、古い街や家屋。そうしたものには、いろいろな「もの」が
居付きやすいものなのかもしれません。その存在を理解し、認め、今の住民と
うまく共生するための「営繕屋」がいれば、その家屋はより多くのものを
抱えながら存在し続ける事ができるのではないでしょうか。そんな家屋に
住む、ということは、知らずしていろんな人や物と繋がりながら生きて
いける、ということなのかもしれません。

にほんブログ村 本ブログへ
本・書籍ランキング