ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

仕事をするということ、自分と向き合うということ

 
 

この世にたやすい仕事はない  』の

イラストブックレビューです。

 

 

燃え尽きた状態となって前職を辞め、しばらく休んだ後、とりあえず働こうと思い、
紹介してもらった仕事は「誰かを見張る」という仕事だった。新たな発見や自信を
持ったり、やはりダメだと思いながら仕事を通して自分の居場所を見つけていく物語。

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ストレスで仕事を辞めたあと、「一日中コラーゲンの抽出見守るような仕事ありますか?」というふざけた私の質問に、「ありますよ」と言って職業安定所の職員が紹介してくれたのは、隠しカメラ設置した女性小説家の行動を一日中見張るというものでした。

燃え尽きた後ですから、何もしたくない、でも働かなくては、でも気力が…。
そんな状況でのお仕事リクエストは、なるべく人との接触がなくて、動きもあまり
ないもの。それが一日中モニターの前に座り、女性小説家の生活を見張るという仕事だったのです。一見ラクなようにも思えますが、これがなかなか大変そうです。

どうやらこの小説家は、自身がそうとは知らずによろしくないデータが入ったDVDを
人から借りていて、返却せずに持ち続けているようなのです。それがどのDVDであるかを探るのが「私」の仕事で、それをピックアップするまでがこの会社の仕事のようです。

一日中PCの前に座り、キーボードを叩いてみたり、考え込んでいると思えば
うたた寝をしていたり。DVDの山の中から一枚を選んで鑑賞し、スーパーに
買い物に行って、安売りしていた大きなソーセージを食べる。

あまり活動的でない監視対象者ですが、何やら断捨離を思いつき、身の回りの
ものを処分しはじめます。そしてついにDVDの山もダンボールに詰められ、
中古販売店へ出されようとしていたところを報告し問題のDVDを手に入れること
ができたのです。普段の行動を見ていたからこそ、この動きに対応できたのだと
評価された「私」ですが、どっと疲れが出て、契約の更新はせず断ります。

その後は、路線バスの広告文面を考える仕事、おせんべいの袋に書かれた豆知識
的なものの企画と文面を考える仕事、森林公園の一部を管理する仕事、など
気がつかないけれど、世の中にはこういう仕事があるんだな、というなんだか
不思議な仕事ばかりを数ヶ月ずつ経験していきます。

どの職場においても、良い先輩や上司などに恵まれ、大きな失敗などもなく
着実に仕事をこなしていく「私」。会社の方から継続してほしい、というリクエストを
受けることもありました。しかし、その場所に留まることを拒否していたのは
かつて長く働き、燃え尽きた、あの仕事こそが自分がやるべき仕事なのではないかと
心の中で感じていたからのようです。

自分で望んで就いた仕事に全力で立ち向かい、色んな方向からストレス受け、
燃え尽きてしまった。そんな状態では、とても前職に戻る気持ちにはなれない
でしょう。ゆっくりと休み、全く違う環境で、思いもしなかったような仕事をいくつも
経験することで、かつての仕事に対して、自分や周囲を責めることなく冷静に
見つめ直すことができたのではないでしょうか。そして、やはり自分がやっていきたい、やりたい仕事はこれなのだと気づく事ができたのかもしれません。

仕事との距離感は難しいものです。夢中になりすぎて燃え尽きることもあるでしょう。
そんな時は、いったん距離を置き、自分とは関連もなさそうな仕事をしてみたり
目線を変えることで、仕事との距離感を保てるのかもしれません。

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