ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

男か女か。「悪い恋人」はどっち?

悪い恋人 』のイラストブックレビューです。

編集

 

夫の両親と二世帯住宅に住む沙知は、同居による多少の窮屈さを感じていたものの
平凡で幸せな日々を送っていた。ある日、裏山の森が伐採され、住宅地に開発される
ということを知る。近隣住民への説明会に現れた開発担当者は、沙知が中学時代に
憧れていた男、勲だった。勲から誘われるままに家を抜け出し、勲と体を重ねる
沙知だったが。

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優しい夫にかわいい息子。そして義両親とともに、義父が改築してくれた
二世帯住宅地に住む沙知。
夕食は義両親とともにとるなど、料理が苦手な沙知にとっては面倒なことも
ありましたが、それなりにうまくやっていました。

そこへ裏山の森が伐採されて、住宅地へと開発される、という知らせが入って
きます。環境が変化することに嫌悪感を示した義両親と、開発業者の説明会に
出向きます。断固反対の姿勢を取る夫と義両親。沙知にとっては特にこだわりも
何もない土地であり、皆が反対するならそちらの方向でいいか、くらいのカンジです。

週に一度、友人たちとカフェでランチをしながら英会話を学ぶ沙知は、
そのカフェで、説明会で説明をしていた開発業者に声をかけられます。
その男は、沙知が中学の頃に憧れていた、勲でした。
二人でコーヒーを飲んだま後、彼に誘われるままにホテルへ。

家族や知り合いとのやりとりでは反論せず、自己主張しない沙知。
周囲からはおとなしく従順な女性だと見られている様子がうかがえます。
それなのに、会ったその日にホテル行きとか、びっくりしてしまいます。
憧れていた初恋の彼と今…!とか気持ちが盛り上がっているわけでもないのが
怖い。

そんな沙知は、会うたびに家族の様子などを勲に伝えます。
それはつまり、開発反対派の行動を逐一報告している、ということです。
家族にとっては敵になる相手に情報を流す。スパイそのものの行動です。
その行動の意味を理解していながら罪悪感なども感じていない様子に
寒気すら感じます。

連絡すればやってくる沙知をいいように利用し、沙知の行動を嘲笑うような
バカにしたような物言いをする勲も大概クソ男ですが、それに流される
沙知のほうが気味が悪いようにも見えます。

夫と息子がいて、多分幸せだと思う。男からの電話を受けて、家族に嘘をついて
まで出かけてしまうのは良くないと思っている。男にないがしろにされても
また追い求めてしまう。しかし家族を捨ててまで、とは思っていない。

義両親と同居するうちに、自分の意見を主張したり、自分が本当に感じて
いることに目を瞑るようになった沙知は、自分の心の中に厚い壁を
作っていたのでしょう。勲はその壁にヒビを入れ、沙知は気づかぬ
うちに自分の気持ちを溢れさせ、その壁を決壊させたのです。

最初から最後まで一方的だった勲と沙知の関係。
しかしそれは、沙知に日常の脆さや、不確かさをもたらし、痛みを感じる心を
取り戻させたようです。タイトルの「悪い恋人」とは、沙知と勲、
いったいどちらなのでしょうか。それは読み手によって異なるのかもしれません。

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