ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

知らなかった家族の顔から見えるもの

四十九日のレシピ  』の

イラストブックレビューです。

編集

 

妻の乙美を亡くし、気力を失ってしまった良平。そこへ娘の百合子もまた
心に傷を抱えて帰ってきた。そんな2人のもとへやってきたのは金髪の女の子、
井本。乙美の教え子だったという彼女は、乙美が作っていた「レシピ」の存在を
伝えにきたのだった。

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最初の妻は、娘の百合子を産み、病死。百合子が5歳の時に後妻として迎えた乙美。
その乙美が死んでからというもの、あらゆることに気力をなくしてしまった良平は、
食事もろくに取らず、風呂も入らない。そんな良平のもとへ、真っ黒に日焼けした
肌に金髪の19歳の少女、井本がやってきた。なんでも乙美の教え子であり、自分が
死んだ後四十九日の頃まで、夫の身の回りを面倒見てやってくれと頼まれたのだとか。
あれこれ2人でもめているうちに娘の百合子も帰ってきて…。

アルコールやセックスなど、様々な依存を抱えた女性が集まるリボンハウスという
互助施設で、絵手紙のほか女性たちに身の回りの事も教えてくれていたという乙美。
井本もそこで乙美に世話になったのがきっかけで、今回頼まれることになったようです。

百合子は夫と問題があったらしく、しばらく実家に滞在するようです。
百合子が長くいられるよう、部屋も整えていかなくてはいけません。
井本がどこからともなく呼んできたブラジルの青年、ハルミを助っ人に、
部屋を快適に改装します。

この4人の明るく奇妙な生活は、四十九日まで続きます。
四十九日は法事ではなく、宴会のような楽しいものにしてほしい、との乙美の
リクエストにより、乙美の「あしあと帳」を作り、宴会に来た客に見てもらおうと
いうことに。そこで乙美の歩みを書いていくのですが、良平も百合子も書ける
ことがほんの僅かであることに愕然とします。
しかし、家を訪れたリボンハウスの女性たちなどにより、少しずつ文字が埋まって
いき、ついには紙いっぱいに乙美の「あしあと」が書かれるのです。

3人家族の母親。後妻。71歳。料理上手。底抜けに明るい。
サラッと書けてしまう乙美の生涯は、多くの幸せを感じ、そしてそれを人に
与えてくれる深いやさしさを持っていました。

料理や家事は、日常を生きること。その大切さを、愛情を持ってカードに描き、
傷ついた女性たちや家族がまた明日を向いて歩いて行けるように、少しずつ
その力を与えてくれるのです。

日頃接している家族の顔は、ほんの一部分しか知りません。しかしそれ以外の
部分もたしかに持っていますし、それがほかの誰かに大きな影響を与えているのかも
しれません。こんなにもみんなに与えてくれる乙美なのに、あの世からみんなに
向かって「ありがとうー!」と叫んでいるのが聴こえてくるようです。
亡くなっていても、みんなを見守り包んでいてくれるような、そんな乙美の
大きな愛に、じんわりと心が温まる物語です。

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