ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

はじめて会った父は、ちょっとコワくて不器用な人でした

読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!

https://shimirubon.jp/columns/1691046 

 

はじめまして、お父さん。 』の

イラストブックレビューです。

 

地方在住の売れないフリーライター、白金力也のもとにインタビュー取材の
仕事依頼が来た。俳優業の傍ら、飲食店経営を成功させた合馬邦人。
一度も会ったことはないが、合馬は力也の父親なのだ。インタビューの後、
会いたい人物が4人いるから同行して欲しいと合馬に頼まれた力也は、
初対面の実父と2人旅をすることになったのだが…。

 

f:id:nukoco:20180918094355j:plain

妻と幼い息子と3人で暮らす、売れないフリーライターの力也。
彼の父親は、かつて映画やテレビドラマで活躍していた俳優の合馬。
子供の頃、親戚のおばちゃんが、彼が自分の父親だという話をして
いるのを聞いたのです。母が合馬のことを口にしたのを聞いた事はありません。

ひょんな事から合馬へのインタビュー取材を受けることになった力也。
インタビューを終えた合馬が力也に申し出たのは、4人人間に会いに行く
旅に同行して欲しい、という内容でした。

ヒョロッとしてお腹も気も弱い力也と、ヤクザ相手に一歩も引かない
強さと気風を持つ合馬。対照的な2人の旅は、実際にヤクザに絡まれそうに
なったり、若者相手にケンカをふっかけたりとトラブルの連続です。

合馬が尋ねたい4人は、かつて迷惑をかけてしまった相手。お詫びの言葉と
共にお金を渡したい、というのです。1人では行きづらいので、力也を
付き合わせたのです。

合馬のスタンスとしては、申し訳ない事をしたのだから謝りたい。
その気持ちを示すものとして、お金を受け取ってもらいたい、というもの。
自分のモヤっとした気持ちをお金で解決しようとしている印象です。
そんな合馬の気持ちを感じるのか、4人の人間たちは、すべてお金を
受け取ることを拒否するのです。

4人とも、合馬の謝罪する気持ちを否定するわけではないのですが、お金を受け取る
わけにはいかない、と言います。皆、苦労していないといえば嘘になりますが、
お金を受け取ることで失う物を理解しているようです。また、受け取る
ことで厄介な物を抱えてしまったり、合馬との関係が変わってしまう事が
嫌だったのかもしれません。合馬自身はお金では得られない大事なことが理解できず、
逆に言えばお金でしか気持ちを伝える術を持たないということです。
それはとても寂しいことでもあります。

4人と出会い、話をしていくうちに家族の絆やあたたかさを感じていく
合馬。そうしたものを、実の息子である力也と少しずつ感じられたのは
彼にとって幸せな事だったのかもしれません。
心の置き場所が全く異なる2人のやりとりと、次第に自分の大切なものを
見つけていく合馬の様子に、胸がじんわりとあたたかくなる物語です。