ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

彼らの「本気」に立ち向かうことができるか

読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!

 https://shimirubon.jp/columns/1691046 

 

オールド・テロリスト 』の

イラストブックレビューです。

 

満州国の人間」名乗る老人からのNHK爆破予告電話をきっかけに、
元週刊誌記者セキグチは、巨大なテロ計画へと巻き込まれていく。

 

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仕事を失い、妻と娘には別れを告げられ、安アパートで一人暮らしを
していたセキグチのもとに入った電話。それは、以前いた会社からで
NHK爆破予告電話があり、セキグチに取材するよう指示があった」
というもの。イタズラの可能性もあるが、名指しということもあり、
フリーで記事を請け負うことに。

そうして予告日時にNHKへ出向いたセキグチが目にした光景は。
一人の若者がガソリンのようなものを床に撒き、可燃材に火をつける。
大きな爆発が起こり、死傷者の出る大惨事となったのです。

一連の出来事を目の前にしたセキグチは、記事を書き、ウェブマガジンに
アップします。読者からの反響を受けた後、また新たなテロ予告が入るのです。
次に起こる商店街でのテロ描写はちょっとヤバいです。血が苦手な人は読まない
ほうがいいかもしれません。

商店街の事件もそうですが、テロ描写が凄まじい。さすが村上龍だなと思う
ところですが、目の前の人間が、何かしらその風景にそぐわないものを
取り出し、周りの人間を傷つけていく。傷つけるという生やさしいものでは
ないですね、人間の姿はもちろん、心までも破壊してしまうのです。
テロ行為というものは、そんな結果を人間にもたらすのだということを
知りました。

テログループへと迫っていくのは、セキグチと、セキグチが以前いた会社の
若い男性、マツノ君、そしてその素性が謎に包まれている若い女性、カツラギ。
彼らはみな、精神安定剤を必要とする状況にあります。
マツノ君はもともと薬などは必要としない健康な男性でしたが、数回のテロを
目の前目撃し、テログループを阻止しようという集まりの中で、自分の必要性が
ないと悟った時から、精神状態が不安定になり、やがて仲間から離脱します。

セキグチは離婚を機にうつ病となり、薬が手放せない状況です。そこへ次から
次へとテロ行為であったり、自分の生命の危機であったりと、精神への負荷が
折り重なり、疲弊していきます。一方のカツラギは、調子の良い時は誰もが
振り返る知的な美人ですが、安定しない時は会話にならず、話しかけている側が
不安な気持ちになってしまいます。

不安定な彼らが立ち向かうのは、屈強な老人たちです。メイングループは
戦争体験したような高齢な老人数人ですが、彼らは気力、体力、知力、財力と
全てを備えた人物たち。そして、テロについても周到に準備しており、
テロの実行犯が自らの考えで行ったように誘導し、どこがテログループの根幹なのかが
わからないようになっています。

恐ろしき老人たちは、世直しのために、日本をリセットする、と言います。
自分たち取材せよ、とセキグチとカツラギはテロの本拠地へと連れて行かれます。
そして最終決戦が繰り広げられるのです。

テロ犯人グループの正体がハッキリとしない状態での、緊張感、恐怖、不安感は
眉を潜めながら、時に心臓の鼓動を早めながらもページをめくる手を止めることが
できません。次々と起こる新たな悲劇に、セキグチとともに打ちひしがれながら、
共に立ち上がり、必死に読み進めていくのです。

この恐ろしい老人たちの「本気」に立ち向かうことができるのか?
いや、老人たちでなくても、似たようなテロが起こったら?
間違いなく立ち尽くすしかないであろう日本の脆弱性に気付かされます。
前半の展開に比べ、ラストが少々あっけないかな、とも感じます。
もう少しページ数を増やして、最後の戦闘シーンをもっと読みたかった。
というか、ひょっとしたらまだ物語は続いているのかも…。

最後まで動悸が止まらない物語です。