『湖底のまつり』の
イラストブックレビューです。
-
- 作者: 泡坂妻夫
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1994/06/18
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (22件) を見る
旅先で川に流された紀子は、助けてくれた晃二と一晩を過ごし
身体を重ねる。しかし、翌日になると晃二は姿を消していた。
地元の人に尋ねると、彼はひと月前に毒殺されたという。
では、昨夜の男はいったい誰だったのか。美しい描写と
折り重なる謎が深い余韻を残すミステリ。
美しい山里の景色。突然姿を変え、荒々しい牙を剥き、あらゆるものを
飲み込もうとする河川。村で行われる最後の祭り。やがてダムの底に
沈みゆく村。
あらゆるピースが、丹念に、妖しい美しさ持って描かれています。
田舎の里山の自然や、村で行われる派手ではないが何か荘厳な
雰囲気を感じさせるお祭り。男女との絡みでさえも、薄暗い光の
中で、まるで夢かうつつかのように綴られています。
毒殺された男とは何者なのか。
ダム建設の反対派組織に属していながらも、いざとなれば身を翻す
ような狡猾な部分を持ち合わせていた男。そして、結婚してすぐに
この夫に死なれてしまった妻は、ダム建設の測量士でもあります。
この男は毒殺される前、妻以外の若い女性と会っていたようなのです。
この若い女性というのは何者なのか。
警察の調べによりさまざまな事実が明らかになっていきます。
そしてラストに向かうにつれ、そう来たか!という展開が
次から次へと訪れます。ちょっとびっくりするラストでしたが、
緻密に作られたパズルのピースが、ひとつづつはまっていく
様子は、爽快感さえ感じます。
構成だけが重要なのではなく、人物描写が細部までしっかりと
していること、そして山里や祭りなどの場の空気感まで細かに
表現されているからこそ、ラストに説得力が生まれ説得力が
生まれるのです。
最初から最後まで漂う重厚感、そして妖しく美しい世界観が
読む者を別世界に連れて行ってくれる、読みがいのあるミステリです。