『総理の夫 First Gentleman』の
イラストブックレビューです。
総理の夫 First Gentleman (実業之日本社文庫)
- 作者: 原田マハ
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2016/12/03
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (4件) を見る
日本初女性総理大臣夫である凛子の夫、日和は日本初の
ファースト・ジェントルマンとして、妻を支えることになったのです。
頭脳明晰、実行力も素晴らしく人望も厚い。そんなパーフェクトな妻、
凛子にベタ惚れな夫、日和。鳥類学者である彼は、鳥の観察と、自由に羽ばたく
妻を見るのが大好き。いつだって妻のやる事を応援してきました。
おっとりした日和と、才色兼備なキャリアウーマンの凛子。
一見正反対の二人ですが、互いになくてはならない存在であることが
伺えます。バリバリで毎日猛ダッシュしている凛子は、じいっと座って
鳥を眺めている日和が癒しに違いありません。
凛子はベテラン議員に担ぎ上げられ、見事首相へ就任。
しかし、これは次に首相の座を狙うベテラン議員の周到な罠だったのです。
輝くばかりのホワイトぶりな凛子からは、いくら叩いてもホコリひとつ
出てきません。当の凛子はと言えば、所信表明演説でも国民の心に響く訴えで
人気を博し、支持率はうなぎ登り。
そこで天然おぼっちゃまの日和に白羽の矢が立ちます。
どうとでも取れる女性とのツーショット写真を撮られ、ベテラン議員に
揺すられてしまうのです。
これをきっかけに、日和の中のスイッチが入ったように見えます。
ファーストジェントルマンとしての役割、使命がハッキリとわかったのではないでしょうか。
彼女に迷惑をかけてはいけない、という思いから一転、真実を伝えなければ
ならないと決意する。ここから彼らの反撃がはじまるのです。
何しろ相手は百戦錬磨のベテラン。彼に睨まれたら政治生命終わり、と思わせる
ほど、味方になれば頼りになり、敵になればかなり手強い相手です。
この辺りの駆け引きで世の中の政治家たちは疲弊しているのではないかとふと思いました。
どの議員さんも、はじめて当選した頃には、国民の生活を良くしよう、より暮らしやすい国を
作ろう!と使命に燃えていたはずなのです。しかしながら、何年も国会にいると
政治家間での政治に夢中。というか、そうしないとやるべきこともできず、
その上自分の進退までちらつかせられたら、やるべきことすらできない、なんて
公式ができあがってしまうのでしょう。
その点、凛子は今までの政治家と異なります。ひたすらまっすぐ。裏取引が大嫌い。
消費税増税を掲げる凛子は、政治家の中でも国民にも反発を買いそうなものなのですが
常に目線は国民に向いています。
大きな波にのまれて日本という船が沈没してしまう前に、今やらなければならない。
自分も国民の一人である、共に頑張りましょう!と国民である我々に訴えるのです。
実際そんな綺麗事で政治が務まるのかよ〜と思ってしまっている自分が悲しくなります。
こんな風に肩を並べて話しかけてくれるような、大丈夫だよ!と横で言ってくれる
ような、そんな政治家がいたでしょうか。見たことありません。
とにかく真っ直ぐに誠実な気持ちが伝わってくるから、任せるのではなくて一緒に
頑張りたくなるのです。
夫である日和は政治に直接関わるわけでなく、日々忙殺される凛子とは日常会話も
ままならないほど。それでも二人は、時にすれ違うこともあるけれど、やはり互いを
大切に思っている事が伝わってきます。これは日和の実家に凛子が訪れる時の態度にも、良く
表れています。夫がこの家族で生まれ育ったことに敬意を表して、礼儀正しくふるまうのです。
ホント、凛子さんたら完璧すぎ。
いくつもの局面を乗り越えて、二人に訪れる未来。これがラストシーンになるのですが
日本の未来が明るく、希望の光が差し込むような、そんな良いラストだったと思います。
そろそろ我が国も女性総理大臣が出ても良い頃かと。でも、凛子さんのような、才色兼備で国民に直接訴えかけてくるような訴求力の高いスーパーウーマンが登場するかは怪しいですが。
それでも上からじゃなくて、国民と同じ目線で国を良くしようということがきちんと伝わる、そんな政治家達がたくさん出てくるといいなと切に願います。
政治家って、総理ってなんだろ?と改めて考えさせられ、かつ二人と周囲の人々の
たくさんの愛が感じられる、とても読後感の良い物語でした。