ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

江戸行きの扉を開いた一冊

 

時代もの、特に江戸の物語は種類も多く、一定のファンがいると言っても良いのでは
ないでしょうか。とはいえ、個人的には、若い頃にはあまり手を出さなかったジャンル
です。ドラマの時代劇的なイメージがあり、悪を挫き、弱気を助ける!というお話を、
中高年のおじさんたちが電車で読んでいるものだろうと思っていました。世の中を作って
いく、切り開いていく、又は何かを守るような主人公の姿を自己投影するのかなと。
江戸の町を自分の会社に置き換えてですよ。

そんなわけで、あまり手が出なかったジャンルですが、ある時、会社のおばさまから
「読んでみる?」と勧められたのが

 

八朔の雪 みをつくし料理帖

八朔の雪 みをつくし料理帖著者: 高田 郁

出版社:角川春樹事務所

発行年:2009

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花散らしの雨 みをつくし料理帖

花散らしの雨 みをつくし料理帖著者: 高田 郁

出版社:角川春樹事務所

発行年:2009

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想い雲 みをつくし料理帖

想い雲 みをつくし料理帖著者: 高田 郁

出版社:角川春樹事務所

発行年:2010

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今朝の春 みをつくし料理帖

今朝の春 みをつくし料理帖著者: 高田 郁

出版社:角川春樹事務所

発行年:2010

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小夜しぐれ みをつくし料理帖

小夜しぐれ みをつくし料理帖著者: 高田 郁

出版社:角川春樹事務所

発行年:2011

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です。「読むの早そうだから一応五冊渡しておくね」とお借りしました。
日中は仕事しているし、帰ってから家事育児でそんなに読む暇ないから2週間くらい
かかっちゃうかなあと思いながら読んだら…あら大変!一晩で2冊。うおお止まらない!
続きが気になる!でも読んでたら明日起きれない!あああ〜!

というくらい一気に読んでしまいました。結局全10冊を1週間で読んだかな。
どの巻も号泣ポイントがあり、そこがまたいい。ため息をついてしまうような深い
感慨を与えてくれるのです。最後はもったいなくてペース落として読みました。
後の五冊はこちらです。

 

心星ひとつ みをつくし料理帖

心星ひとつ みをつくし料理帖著者: 高田 郁

出版社:角川春樹事務所

発行年:2011

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夏天の虹 みをつくし料理帖

夏天の虹 みをつくし料理帖著者: 高田 郁

出版社:角川春樹事務所

発行年:2012

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残月 みをつくし料理帖

残月 みをつくし料理帖著者: 高田 郁

出版社:角川春樹事務所

発行年:2013

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美雪晴れ みをつくし料理帖

美雪晴れ みをつくし料理帖著者: 高田 郁

出版社:角川春樹事務所

発行年:2014

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天(そら)の梯 みをつくし料理帖

天(そら)の梯 みをつくし料理帖著者: 高田 郁

出版社:角川春樹事務所

発行年:2014

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水害で両親を亡くし、天涯孤独の身となった少女、澪は大阪の名店「天満吉兆庵」の
女将に助けられ、奉公人として働きはじめます。澪はその味覚を認められ、料理の
修業に励みますが、火事により店が消失。女将の息子を頼り、江戸へとやってくるが、
息子は行方不明。

ふとしたきっかけで、蕎麦屋「つる家」の主人、種市から店で働かないかと声を
かけられ、働きはじめた澪。上方とに味の違いに戸惑い、失敗もあったが、
上方と江戸の良いところを合わせた料理作ろうと日々努力を続けます。
やがてその料理は評判を呼び「つる屋」は名店と呼ばれるようになっていくのです。

大阪から江戸へ。第1巻ですでに波乱万丈ですが、とにかく目の前のことをひとつ
ひとつしっかりとやっていこうという、澪の姿勢が気持ち良く、彼女の誠実な気持ちが
料理に現れてくるようです。壁は次から次へと現れますが、決して諦めることはありません。

上方と江戸の食材や調理の仕方、味付けの違い。そんな文化的な面に関する描写も、
非常に興味深いものです。そして、今のミシュラン的な「料理番付」なるものが江戸に
存在し、その評価を求めて料理人や店が苦労する姿は、現代とはそう変わらないのだな
とも感じます。

料理をはじめ、恋愛、友情、別れなど巻を重ねる度に要素が増え、展開していくため
これは一年に一冊づつ読んでいたら、続きが気になって頭がおかしくなりそうだな、
と思うくらいこの世界にのめり込んでしまいました。全巻出てから出会って良かった。

江戸も現代も、仕事の悩みや恋愛、生きていくことへの葛藤はその時代なりにあります。
大切なのはその姿勢、自分の芯はどうあるべきかを理解し、そこを貫くこと。
この物語の澪は、そんな事を読者に教えてくれるのです。

おじさまが読むジャンルだと思い込んでいてごめんなさい。
捕物帳とか正義の味方的な話以外にも、人生の機微を描いた、バリエーション豊かな
江戸物語はたくさんあることに気づいた一冊です。

みなさまももし入手される際には是非全10巻をまとめて、をオススメします。

 

※このコラムは『シミルボン』に掲載したものです。

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私を呼ぶ美女たち

「一目惚れ」最高の表紙はこれで決まり!

美しいものが好きです。絵や宝石、景色などいろいろ興味はありますが、特に美しい
女性は大好き。じっくりと眺めていると幸せな気分になります。美女って、ハッピーを
与えてくれる存在なんですねえ。

そんな美女好きな私は、書店で見かけるさまざまな美女にあれこれと手を伸ばします。
平積みのコーナーであれば、写真、イラストなどさまざまな表紙を一度に
見ることができますが、美女の顔がどーんと出てくる本には引き寄せられます。
あんな美女やこんな美女、どれも選びたい放題ですよ。素晴らしきかな書店。
それでは書店で出会って我が家に連れて帰ってきた美女たちをご紹介します。

 

傷痕

傷痕著者: 桜庭 一樹

出版社:文藝春秋

発行年:2019

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50代にして亡くなった某アメリカンポップスターを彷彿とさせるお話です。
子供の頃から兄弟と共演し、成長してからは一人で、世界的カリスマ歌手となって
いったキング・オブ・ポップスターと言われた男。その彼の生涯を、姉や娘、
記者やボディガードなどの周囲の人間が語ります。

表紙の仮面を持った少女の、その瞳に吸い込まれそうになります。少女は、
「傷痕」という名のスターの十一歳の娘。廃校となった小学校の跡地に建てた、
遊園地や動物園も併設されている場所で、万全のセキュリティ体制のもとで
育てられているのです。

スターである父親を亡くした少女の胸のうちはどのようなものなのでしょうか。
世間から遠慮なく押し付けられる推測や揶揄、憧れと沸き立つ興奮。常にそんな
中に晒されてきたスターのカリスマ性と内面は、彼を見る者の心のあり方によって、
その印象は変わるのです。

限られた空間で過ごしてきた父と娘。少女の、幼いながらも老成したような、
何もかも受け入れ、飲み込んでいってしまうような瞳に、スターという呪いを
かけられた諦めや悲しみのようなものを感じるのです。

 

月の影影の海 上

月の影影の海 上著者: 小野 不由美

出版社:新潮社

発行年:2012

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月の影影の海 下

月の影影の海 下著者: 小野 不由美

出版社:新潮社

発行年:2012

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十二国記シリーズ、本編の一作目です。女子高生の陽子のもとに、ケイキと名乗る
男が現れ、地図のない異界へと彼女を連れ去ります。途中でケイキとはぐれてしまった
陽子は出会う者に裏切られ、異形の獣に襲われます。何のために闘うのか。
なぜ生きるのか。その答えは大きな決断へとつながっていたのです。

表紙の赤毛の美女は、主人公の陽子です。訳の分からぬままに異世界に連れて来られて、危険な目にあったり、人に裏切られたりしてダメージを受けまくっています。
何度もくじけそうになりながら、前に進んでいくうちに、闘うべきものは自分の中に
あることに気づくのです。

陽子は最初から強いわけではありません。それが、トラブルを乗り越えていくにつれ、
甘えていた自分に気づき、そして使命を全うすべく意識が変化していくのです。
そうした決意や覚悟が表紙の表情から漂ってくるのです。強さを感じる美しさですね。
下巻の刀を構えたポーズと表情も素敵です。

 

髪結百花

髪結百花著者: 泉 ゆたか

出版社:KADOKAWA

発行年:2018

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吉原で髪結として働く梅は、元夫を遊女に寝取られた過去を持っています。遊女たちと
距離を縮められない梅ですが、禿の少女タエや、花魁の紀ノ川らと接するうちに髪結と
しての仕事への喜びと達成感を高めていきます。江戸の吉原を舞台に、 女たちの生き様を描いた物語です。

この表紙は発刊前に、泉ゆたかさんのツイッターで知ったのですが「わあ綺麗だな!」
というのが第一印象でした。抜けるような白い肌、大きく抜いた色っぽい襟元。
花魁特有の髪型と髪飾りで華やかですが、眉間にぱらりと落ちるわずかな髪が、また
妖艶な印象です。あんまり綺麗なんで装画を手がけた山科理恵さんの個展にも行って
きました。どれも素敵で、全部ソールドアウトでした。さすが…。

物語は、吉原を舞台に遊女という世界の閉塞感や、彼女達の哀しみや喜びを描きます。梅は髪を結うことで、彼女たちの体調を知り、心の動きを理解していきます。厳しい世界で生きて行くために懸命となる彼女たち。彼女たちの熱が、文章から伝わってくるようです。

表紙の美女は、花魁の紀ノ川。生きて目の前に現れたら完全に魂を抜かれてしまうだろうなあと思う美女ぶりです。自分が男に生まれていたら、破産するほどつぎこんでしまうかも…。

表紙は彼女たちのほんの一面を表に出しているのだけれど、物語を読むことによって、
その表情やポーズに改めて納得したり、この美女があんな風に喋ったり、あんなこと
したりするんだなあと想像する楽しさも味わえます。

振り向けば美女がいる。今日も美女との出会いを求めて書店へと繰り出すのです。

 

※このコラムは『シミルボン』に掲載したものです。

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大切なものをなくしてしまった心を癒す ペンギンの役割

 
 
 
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ペンギン鉄道なくしもの係  』の

イラストブックレビューです。

 

 

電車での忘れ物を保管・管理する遺失物保管所は湯盥線の終点、海狭間駅にある。
無人改札の小さな駅で、担当者である赤い髪をした守保と、そして彼のかたわらには
一羽のペンギンがいる。なくしものをした人たちは、ペンギンと守保に驚きながらも、
自分の中にある本当の気持ちに気づき、向き合っていく。

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3両ほどの車両で走る湯盥線。その車両には、ペンギンが乗っている…。
この光景を見た人は二度見した後、周囲の人に同意を求めるようにあたりを
見回してしまうのではないでしょうか。この物語の登場人物たちもそのようで
ペンギンに気をとられたために、うっかりと電車に中に忘れ物をしてしまったり
するのです。

ある女性は、一年も前に亡くなったペットの骨壷を。
ある高校生の男子は、小学生の頃に同級生からもらったラブレターを。
ぐうたら専業主婦は履歴書を。

彼らの忘れ物自体がもう気になりますよね。骨壷持ち歩くの?なんで?
小学生の頃にもらったラブレターって!よっぽどすごい思い入れが?
ぐうたらなのに履歴書?相反してない?

…そうです。皆さん、何かしら現状で問題を抱えています。
例えば骨壷の女性は、ペットをなくしたことを認めたくない気持ちが表向きは
あるのですが、片思いしていた先輩が自分の親友と結婚して幸せに暮らしている
ことが、心にひっかかっています。

ラブレターの高校生は、引きこもりでネットゲームばかりしています。
コミュニケーションなんて何一つ気にせず、ラブレターまでもらった小学生時代が
自分の黄金期だと思い、そのラブレターをお守りがわりに持っていたのでした。

ぐうたら主婦は、夫に「妊娠している」と勘違いされ、訂正できないままにどんどん
自分の嘘が膨らんでいき、そして最後には夫との関係が変わるような結果が訪れて…。

なくしもの係の守保は、赤い髪をしていますが、華奢で優しそうな雰囲気です。
笑うと口がフニャっとあひる口になって、なくしものと自分の問題を抱えて硬く
なっている彼らの心を、柔らかくしてくれる効果があるようです。
ペンギンを甲斐甲斐しくお世話している様子にも、思わず笑みが浮かんでしまいます。

そんなペンギンと青年の姿を見たり、時には言葉をもらったことから、自分がなくした
ものと自分が本当に抱える問題や、自分が本当に望むことは何なのか、という事を
登場人物達は見つけていきます。自分をしっかりと見つめることで、明日へと歩き出す
一歩が力強いものとなっていくようです。

なくしたくないもの、大事なもの。時の移り変わりとともに、変わっていくもの、
変わらないもの。それらを時に思い出したり、また忘れたりしながら、前を向いて
歩いて行こう。そんな風に語りかけてくれるような、一歩踏み出す勇気を与えてくれる、
心温まる物語です。

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タフで不運な女探偵 最悪の事件に巻き込まれる

錆びた滑車  』の

イラストブックレビューです。

 

女探偵の葉村晶は、石和梅子という老女を尾行していたところ、梅子ともう一人の老女、青沼ミツエのケンカに巻き込まれ、負傷する。ミツエが所有するアパートに住むことになった葉村は、ミツエの孫のヒロトからある調査を依頼されるのだが…。

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挙動不審な母の行動を調べて欲しい、という息子からの依頼で石和梅子を尾行することになった葉村。アパート経営がうまくいかず、お金に苦労していたが息子夫婦を頼りたくなかった梅子は、昔からの友人であるミツエを尋ねます。ミツエの息子と孫が事故に
巻き込まれ、息子は死亡、孫は大ケガを負い、リハビリ中です。事故の賠償金でお金を
たっぷり持っているだろうからと、お金の無心にいったのでした。

そんながめつい梅子にミツエは怒り、二人はもみ合った末に外階段から落ちてきて
しまいます。葉村の上に。物語開始早々、額を切る怪我をする葉村ですが、怪我を
し慣れているため、これは致命傷ではないから大丈夫、と冷静に判断します。
カッコいいけど、そういうのがわかるほど色々とすごい目に今まで遭ってきたんだよねぇ…。

ミツエはほとんど住人のいないアパートの経営をしているのですが、葉村はその空いた
一室に住むことになります。口も頭も達者なミツエにあれこれと用事を言われて、
ミツエの用事を手伝ったりしています。そんな中、孫のヒロトからある依頼を受けます。自分が事故に遭った当日、なぜ現場にいたのかが思い出せないから調べて欲しいというのです。

引き受けるとも言わないうちにまた新たな事態が発生し、次から次へとトラブルに巻き
込まれていく葉村。何度も危険な目に遭い、あばらを折ったり、大きな権力の都合に
振り回されたりして、それはもう酷い目にあうのです。不運な女探偵と言われるのも
よくわかります。

薬を盛られ、何度も吐き、のたうつような痛みや苦しみの中でパニックを起こしそうに
なった時、こんな風に自分をなだめます。

大丈夫、苦しいだけ。痛いだけ。最悪でも死ぬだけ。大丈夫。

死ぬだけって!!大丈夫じゃないよ!!でも、自分を落ち着かせる冷静さが頭の片隅に
あるということですよね。さすが数々の修羅場をくぐってきただけのことはあります。

自分だったら、恐怖に足がすくんだり、心が折れてしまって動けなくなるだろうと思う
状況ですが、葉村は満身創痍でありながらも、真実に向かって突き進んでいきます。
彼女を奮い立たせる原動力は「怒り」。人の悪意、権力による支配への怒りです。

そうした権力により、留置場に数日閉じ込められてしまう事態になった葉村は

少し前なら自分の行動をバカバカしいと思うところだが、日本国民の身柄を不当に拘束しても、相手が探偵なら超オッケー。ってことらしいのが、今回の件であらためて身にしみていた。

いつもの皮肉な調子から、国家権力に軽々しく自分の身柄を拘束されたことに、
静かな怒りを感じます。国家のもとの活動下では一人の人間の動向などどうという
こともない、という目に遭った葉村は、自分の中に怒りの炎を燃やすのです。

何度も命の危険に遭い、悪意をぶつけられながら真実に向かっていく葉村は、
果てしなくハードボイルド。でも権力には足蹴にされるし、決してかっこいい
だけじゃない。そこがまた現実的で、説得力があるのです。頑張ってるのに
報われない、おまけに年とともに体力に不安も出てきた…という葉村は、
吉祥寺の古書店の二階で、今も書店のバイトをしつつ、依頼人からの調査を
待っているのでしょう。

探偵という仕事をやり続け、さまざまな人の感情を見てきた彼女から発せられる
言葉は、深い説得力を持って読者の心に響いてくるのです。

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ツライのは仕事ですか?それとも…上司?

今日は天気がいいので

 上司を撲殺しようと思います 』の

イラストブックレビューです。

 

 

上司である岸本から嫌がらせを受け続ける玲美は、身も心も疲れきっていた。
せめて神頼みをと、縁切り神社に出かけてお参りをした日から、上司を殺すための
準備をする夢を見るようになる。そしてある夜、夢の中で決行しようとするのだが。
部下を苦しめる奴らの行く末を描く、ちょっとブラックなお仕事短編集。

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仕事が遅い、確認不足、皆忙しいのだからいちいち聞くな。
出身大学をあげていちいち嫌味を言う。

そんな岸本係長を上司に、日々何とか仕事をしている玲美。
自分が仕事ができないのが悪い…と考えたりもしてみるけれど、どう考えても
こりゃいびられているとしか思えない状況です。読んでいて辛いなあ。

仕事が忙しいとか、大変な場合は周囲に助けてもらうなり、何らかの方法があるとは
思いますが、その助けをのべた手をひっぱたいて足で踏みつけるような上司です。
これはいけません。玲美も岸本を殺せないかなあなんて考えています。
まあ、想像するだけならいいんじゃないでしょうか。それで少しでも気持ちが軽く
なるなら。

それでも毎日毎日受ける嫌がらせに、疲労困憊してしまう玲美。縁切り神社に行き
絵馬に切実な願いを書きます。そしてその日から、岸本を殺すために準備する夢を
見るようになるのです。それも、日々準備は進んでいき、とうとう実行する夢を
見るのです…。果たしてこは夢か現実なのか。

厄介な上司、という一言では片付けられない、部下を壊していくような人間が上に
立つことは珍しいことではないのかもしれません。そうした厄介な上司を持ち、
心身を疲弊させていく部下たち。そうした彼らのやるせない思いは、「念」となって
形を持ち上司に対して報復をもたらすのかもしれません。

会社員時代は変な上司はたくさんいましたが、殺したくなるような人はいなかった
なあ。周囲に上司のことで悩む人がいたならば、そこまで思い詰める前に人に相談
するか、会社をやめようね、と自分だったらアドバイスするでしょうね。

それできるんだったらとっくにそうしてるわ!
という、今まさに極悪上司に苦しんでいるアナタは、とりあえずこれ読んで登場人物を
該当人物に置き換えてみましょう。一時的にはスッキリするかも。でも、その怒りが
「念」になる前に、その人から離れましょうね。

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全てを失った者にとっての本当に安全な場所とは

彼女たちが眠る家  』の

イラストブックレビューです。

 

九州の離島にある家。ここには、ある問題を抱えた女たちが集まり、世間から
距離を置き、静かに暮らしていた。互いの過去や本名や過去も知らず、ネット
禁止という環境で過ごす彼女らのもとへ、ある母娘がやってきた。彼女らに
よって、ここでの生活が大きく変わっていく。

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悲しみやつらさを抱えながらも前を向いて生きていく、読む者に力を与えて
くれる人間ドラマを描いた作品が多いように感じる原田ひ香さんですが、こちら
は珍しくミステリーの風味。そして湊かなえ作品っぽいなあと感じました。
ちなみに解説は湊かなえさんでした。お二人はご縁があるようですね。

九州の小さな離島。ここに住む女性たちはある問題を抱えています。
表向きは自身のアレルギーを改善させるために、田舎で暮らしているという名目
ですが、近隣の方たちとは不自然にならない程度に注意深く接しています。
犯罪を犯したのか?それともDV被害から逃げてきたのか。

主人公はここの暮らしでは「テントウムシ」と呼ばれています。年の頃は40代半ば
から後半くらい?リーダーはマリアと呼ばれる年長で白髪の女性で、彼女が住民たちに
虫の名前をつけて、その名前を家の中で呼び合っているのです。

新たに入ってきた母娘の、母親はミツバチ、娘はアゲハと名付けられます。
彼女たち、特に娘である10代のアゲハは美しく、そしてテントウムシたちが知らない
うちに島の男性たちと接触したりしているようです。その行動に不安や不審を抱きつつ、テントウムシは図書館で、禁じられたネットを使ってアゲハについて調べるのです。

テントウムシ、ミツバチ、アゲハたち、この家に住む女性たちがが過去にあった出来事は、悲惨な出来事でした。悲惨、という一言では済まされないものかもしれません。
それは、ネット上に流されたくない画像や動画を流されてしまったことです。
職場にいられなくなり、付き合っていた人とは別れ、住む場所を変えても常に
誰かに後ろ指を指されているような気がする…。

アゲハもそうした被害者の一人であったのです。しかし、それで終わりではありません。それはアゲハのほんの一面でしかなかったのです。そこから奇妙にねじれた母娘たちの発言や行動が、テントウムシを追い詰めていくのです。目的のためには自分の恥ずかしい画像だろうが利用してみせるという女の恐ろしさ。そう思ってしまう原因の悲しさ。怖いはずなのに悲しみを感じてしまう。そこが原田さんらしいところなのかもしれません。

ハッピーエンドとは言えない(かといってバッドエンドでもない)物語ですが、
ボロボロに傷ついた女性たちが生きていこうとする姿に胸を打たれますし、そして
ようやくたどり着いた安心できる場所でさえ奪っていく悪魔の姿にゾッとするのですが、でもそんな悪魔を気の毒に思う自分がいます。

大事なものがあれば強くなれる。その強さは時に、歪んだ方向へと伸びていくことが
あり、本人が気がつくまで誰にも止められないのだということ。そして、本人は薄々
気がついていたとしても、止められなくなっていることがあるのだということ。
そこが人間の悲しさであるのかもしれない。そんな風に感じる物語でした。

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本当の殺人犯は誰?予測不能な秀逸ミステリー

そしてミランダを殺す  』の

イラストブックレビューです。

 

妻の浮気を知り、怒りの気持ちでいっぱいになっていたテッドは、空港のバーで
見知らぬ美女リリーに声をかけられる。酔った勢いで「妻を殺したい」と言って
しまうテッドに、リリーは同意し、協力を申し出る。二人で計画を進めるうちに
予想外の出来事が起こる。

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実業家でお金持ちのテッドには、若くて美しい、魅力的な妻、ミランダがいます。
別荘を建てることになり、多忙なテッドに変わって、ミランダが現地へと赴き、
工事の進行をチェックしたり、指示を出したりしています。ある日テッドは、
妻を驚かせてやろうと妻には内緒で建設中の別荘へと向かいました。そこで、
ミランダと業者の関係を疑い、日を改めて彼らを観察したところ、浮気の決定的
現場を発見してしまいます。

怒りや苦しみで頭がいっぱいになってしまうテッド。しかし、ミランダにさりげなく
水を向けてみてもシレッとかわされ、まるで疑っているこちらの見たものが嘘だった
のではないかと思うほど。おまけに、現地では疑われるような行動を避け、一切人目
につかない状況で浮気していたという、狡猾な部分も。悪い女だなあ。

そんなテッドに話しかけてきたのは、赤毛の美女、リリーでした。テッドの話に同意し、ミランダは殺されるべきであり、自分が殺害について協力する、と申し出ます。
驚き、戸惑いながらも、ミランダの行為に対してどうにも気持ちが収まらず、殺意を
固めていくテッド。そしてリリーと計画を進めていくうちに、テッドは彼女に惹かれ
始めている自分に気がつくのですが。

ミランダと面識のないリリーが殺害計画に参加することにより、計画は確実性の高い
ものに見えました。しかし、ミランダも大人しく殺されるようなタマじゃございません。さすが悪い女だなぁと思わせる、すごい罠をミランダも仕掛けていたりするのです。

そして、もう一つ、12歳の少女が大人の男性を殺害し、その死体を井戸に入れて隠す
という過去の話が出てきます。この少女はいったい誰なのでしょうか。ミランダ?
それともリリー?二人の女性の過去はどんなものだったのか。

次から次へと明らかになる、ミランダやリリーの本性、そして過去。同時に誰かが
殺されようとしていたり、また他の誰かが殺そうと策略をしたりしていて、怒涛の
展開にページをめくる手が止まりません。

サイコパスな殺人犯とは、魅力的な人物であるということがよくわかります。
その魅力に取り憑かれた人物たちが、さまざまな被害に巻き込まれていくのもまた
仕方のないことなのかもしれません。

そして迎える衝撃のラストに思わず「ああっ!」声を上げた後、深いため息を
ついてしまいます。見事な構成で、最後の最後まで読者を引きつける、秀逸なミステリーです。


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