ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

命の重さはどうやって決まるの?

私の命はあなたの命より軽い』の

イラストブックレビューです。

私の命はあなたの命より軽い (講談社文庫)

私の命はあなたの命より軽い (講談社文庫)

 

 

東京で初めての出産を控えた遼子。
だが、突然夫の海外赴任が決まり、大阪の実家で
里帰り出産をすることに。
帰って見ると、家族の様子がなんだかおかしい。
私の家族に一体何が起こったのか。

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初めての出産を前に、夫の海外不妊が決まり、
会社に対する不満と育児に対する大きな不安が遼子を襲います。
産後はしばらく赤ちゃんのお世話以外、動き回らないように
言われていますし、赤ん坊と自分の2人だけでは
どちらかが体調を崩したりした場合、いったいどうしたら…
とあれこれ考えしまうのは当然のことだと思います。
出産前で感情が昂ぶりがちな遼子の様子が良くわかりますし、
遼子自身もそれを自覚していて、案外自分を客観的に見る目も
持っているようです。

東京で出産の予定を変更し、大阪の実家で産むことに決めた遼子。
帰ってみれば、父、母、妹が全く目を合わせない。
私と話すときは皆、自分の目を見てくれるのに。
赤ん坊が産まれることについても、どうも歓迎されている
感じがしない。それでも、自分と2人きりの時であれば、母も、
高校生の妹も体調を気遣ってくれるし、赤ん坊の話もする。
自分の気のせいかと思った遼子だが。

大阪での産院探し、久々の地元の友人との再会で、家族の違和感に
繋がるような情報が少しづつ出てきます。
どうやら妹が父や母と不仲になった原因は、それらの情報の中に
あるようです。完全に親の立場で読んでしまっている自分には
だんだん首を絞められていくような息苦しさを感じてしまいます。

全ての事実が明白となるのは、物語も終盤の頃です。
そこには、自分が考えていた子供像を娘に押し付け、それと
異なる行動はいっさい許さない父親、そしてそれに従うことしか
考えない母親が描かれます。これは、子どもの立場から見ると
ひどい親だな!子どもの味方になってやれよ!と思うかも
しれません。しかし、親の立場からすると、こんな反応も
仕方ないのかもな、と思うのです。親が考える子どもの姿の
キャパシティを完全に超えていますから。脳が思考停止して
しまったのでしょうね。

遼子は娘の立場から両親と妹を見ています。だから、家族の中で孤立していて
両親から娘ではないような扱いを受けている妹を守る、と決めます。
そして、自分が親になる、という立場から、親の気持ちも理解
することができるのです。今は、両親と妹が一緒にいては
何も良い方向に物事が運ばない、ということにも気づきます。
結婚して、家から出て行ったからこそ、一歩引いて家族を眺め
自分が親になる、という前提で親と子、両方の視点を得ることができる。
遼子は今回の事で広い視野と心を得たのかもしれません。

間も無く出産、という時期に妹のために奔走し、最終的には
東京で出産した遼子。妹もしばらく東京で一緒に暮らすことになり、
時を経て、両親と妹の関係も少しづつ改善していきます。
愛しすぎるもの同士は、時に距離を置くことも必要なのかも
しれないな、と綺麗に終わるかと思いきや。
そのラストに背筋がゾワリとします。
え?今までのできごとって?妹は本当はどんな子だった?

父親、母親、姉、妹。
肩書きに隠れて見えない素の姿はどんなものなのでしょうか。
本人にしてみれば、いつも晒しているものなのに、周りが
見ようとしていないだけなのかもしれません。
そんなことを感じさせるちょっと怖い物語でした。

 

 

キレッキレの悦ちゃんの魅力満載の物語

悦ちゃん 』の

イラストブックレビューです。

悦ちゃん (ちくま文庫)

悦ちゃん (ちくま文庫)

 

 

母親に先立たれ、作詞家の父と暮らす10歳の女の子、悦ちゃん
元気でおませでちょっぴり口が悪いけど歌が上手。
ある日、父親の碌さんに後妻を迎える話が舞い込んで来た。

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ちくま文庫獅子文六の作品が出るようになってから読み始めて
三作目。今回は父と幼い娘を描く物語です。
獅子文六の作品は、どれも登場人物と構成がしっかりくっきりと
していて、舞台や映画、ドラマなんかにぴったりだと思います。

主人公悦ちゃんは10歳の女の子。母親を早くに亡くしていますが
明るくて元気で、威勢がいい。口が悪くて生意気なところも
あるけれど、イマイチ頼りない父親にダメ出しなんかしたりして
しっかりしているところもあるから、憎めないのです。

父親の碌さんは売れない作詞家。月々の暮らしがやっとこという状態。
しかし「お買い物は銀座へ行く!」と悦ちゃんにせがまれ、足を運ぶ。
のんびり屋さんの碌さんですが、こんなところは見栄っぱりで
東京者、という感じがします。ちなみにこちらは昭和10年代頃のお話の
ようです。今は東京の人って、見栄っぱりなイメージはあまり
ないような気がします、と一応フォロー入れておきます(笑)。

そんな碌さんに、後妻迎えてはどうか、という話が持ち込まれます。
持参金付きであるし、義兄の会社の取引相手の娘という、大いに
戦略じみた話ではありますが、悦ちゃんだってまだまだ母親が
恋しい年頃であるし、やはり持参金は魅力的だ(やっぱりか)と
いうことで、お見合いをします。

相手は美人ですこぶる教養のあるご婦人、カオルさん。
ただし、この時代のスタンダードな妻の座は全く希望しておらず、
自分は勉強をし、教養を磨き、そして文化的活動をする夫を支えて
生きていきたい、とのたまうのです。
つまり、「育児と家事はしません。文化人の夫と恋人のように暮らしたい」と
こうおっしゃるんですね。相当先進的なご婦人のようでうす。

これがまた悦ちゃんと合わない。まあ、先方も子ども好きでない空気を
醸しているわけですから、悦ちゃんのほうで合わせるなんて気は
毛頭ありません。しかし、大人の事情で結婚の話はどんどん進みます。

悦ちゃん、かわいそう。イヤな継母とくらして、体良く全寮制の
学校へ追い払われて…というところへ、優しいお姉さんが登場。
銀座のデパートで、悦ちゃんへおすすめの水着を見繕ってくれた
女性店員の鏡子さんです。鏡子さんも、幼い頃に母親を
亡くしており、悦ちゃんと意気投合。文通を始めて、2人は
仲良しになります。悦ちゃんは、鏡子さんに「私の母親になって」
とお願いします。それには困惑する鏡子さんですが…。

碌さん、カオルさん、鏡子さん、鏡子さんの父親、売れっ子の
作曲家など、さまざまな人物が登場し、これでもかこれでもかと
誤解が生じていきます。もつれにもつれまくっても、話がこんがらがることなく
登場人物も混乱することなく、面白く読んでいくことできます。

作者の筆力はもちろんですが、悦ちゃんの牽引力も大きいです。
10歳という小さな少女ではありますが、決して悲観することなく、
少々落ち込んでもすぐに解決のために立ち上がる。そんな姿を見ると、
思わずがんばって!と応援したくなってしまいます。
いや、充分がんばっているから無理するな、と言う方が正解かな。
でも、本人はその自覚がなく突っ走ってしまうのですから、
そこが子供らしくもあり、せつなくなる部分でもあり。

後半は前半の陽気さと比較して、打って変わって湿っぽくなって
しまうのですが、ここでは鏡子さんの父親が非常に
いい味を出していて飽きさせません。
昭和10年代における、古き良き時代の人、つまり人情に篤い
頑固者というキャラクターなんですが、この人もいろいろ
面倒を巻き起こすのです。それが悪気がなくて、まっすぐなもんだから
笑っちゃうのだけど笑えないというか。
そのあたりさじ加減も絶妙なんですね。

悦ちゃんと、悦ちゃんを取り巻く大人たちが巻き起こすドタバタ劇場。
時代の古さが、違和感というよりはかえっていいスパイスとなっており
その時代の自由さと不自由さがよく伝わってきます。
小さな体で大きなエネルギー発する、みんなの宝物、悦ちゃん
こどもはやはり愛されて輝くのだ、という事を笑いと涙で教えてくれる
とっても素敵な物語です。

 

何者でもない私は かけがえのない私

田舎の紳士服店のモデルの妻』の

イラストブックレビューです。

田舎の紳士服店のモデルの妻 (文春文庫)

田舎の紳士服店のモデルの妻 (文春文庫)

 

 

東京から夫の故郷に移り住むことになった梨々子。
田舎暮らしに戸惑い、うつ病である夫とすれ違い、
子どもの成長に喜び、不安を抱え…。
30歳から40歳、普通の、等身大の女性の12年間を、
二年刻み定点観測のように描く。

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2人の息子に恵まれた梨々子。
長男は都内の幼稚園に通い、次男はまだ10ヶ月で
2時間ごとに夜泣きをします。
平凡であるが充分に幸せな日々を送っていたある日、夫から
「田舎に帰ろうと思っている」と告げられます。

東京での生活。夫への思い。さまざまな考えが巡っては
ひとまず泣く赤ん坊を宥めることにして、考えることを中止します。
子育て経験者には、とても共感出来る部分です。
大事なことを長時間考え続けることができなくて、後回し。
充分に検討することなく、決定してしまう。
でも、それほどひどい決断でもないように言い聞かせるのです。
だって、東京にどうしてもいたい、というわけでないのだから…と。

夫の田舎で暮らし始めた梨々子。
町内会で開催された運動会をきっかけにして、少しずつ周囲と
馴染んでいるかのように見えます。
東京からのママ友からのメールにも、最初はいちいち反応して
いましたが、次第に気にならなくなってきます。

ママ友からのメールの内容が、最初は「そっちの生活に慣れた?」といった
他愛のないものでしたが、次第にディープな身の上話になり、しまいには
有る事無い事(高確率で盛ってる)を独白されてしまいます。
それは、梨々子が東京にいない人だから。
「近くにいる人ではないから、はけ口にしてしまおう」という
そんな女同士の関係の描写が妙にリアルで、本当に不愉快。
しかし梨々子も大したもので「、東京へいって話聞こうか?」と
メールします。途端にメールが来なくなったとか。やるじゃないの。

子どもたちが成長するにしたがって、「長男が小学校に馴染んでいないようです」
と呼び出され、「次男が発達に問題があるようです」と呼び出され。
小綺麗な東京から来た若いママさんだった梨々子も場数?を
踏んで、親として対応に迷いが少なく、逞しくなっていきます。
事情を知らない第三者が、梨々子の一部分だけを見れば、子どもの
面倒をきちんとみていない、というかもしれません。
しかし、その裏では子どもの成長に目を向け、喜びを感じ、
自分の子育てに不安を感じることもありつつも懸命に子育てを
しているのです。

でも、やはりどこか隙が」あるというか。
梨々子は、自分が「主役であることに諦めて切れていない部分があるのですね。
根底にそんな意識があるためか、夫以外の男性と数回デートします。
うつ病である夫と、しょっ中呼び出しをもらう子供達の
生活を日々支えている梨々子の、ささやかなオアシスだったのです。
でも、その男性とは会うことを諦めます。

その瞬間、梨々子は「主役」を降りたのです。
その代わり、何になったのか。
妻なのか、母なのか、それとも。
何者でもない、何者であるかも問題ではない。
そこでただ、生きて行く。

そう決めて、風に揺れながらもしっかりと立つ葦のように
力強く、しなやかに生きていく梨々子の姿はとても美しいです。
主役を降りたことにより、誰にも替えられない自分を
手に入れたのでしょうね。それと、田舎に越して来た当初には
なかった、ここで生きていくという覚悟を。

主婦という世界に広がる価値観が、女性の生き方をがんじがらめに
することがあります。その価値観から脱出したところに
自分だけが見える、歩いていくべき世界が現れるのでしょう。
1人の女性の10年間を、じっくりと覗かせてもらい、
成長とともにそれまでの価値観がポロポロ剥がれていく様子が、
何だか梨々子が楽になっていくようで、いいな、と思いました。
女性の心の動きがつぶさに描かれているので、女性はもちろん
男性にもおすすめな一冊です。

これぞ生きる達人!スーパーおばあちゃん物語

ひかりの魔女 』の

イラストブックレビューです。

 

ひかりの魔女 (双葉文庫)

ひかりの魔女 (双葉文庫)

 

 

ばあちゃんと一緒に暮らすことになった浪人生、真崎光一。
ばあちゃんの用事に付き合って出かければ、ばあちゃんは
「先生!」と慕われる。ばあちゃんが作る、お釜で炊いたご飯や
煮物、漬物などが異常においしい。そしてばあちゃんは嘘をつく。
ばあちゃんが巻き起こす幸せの物語。

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ばあちゃんは、もと書道教室の先生。米寿が近い80代。
足腰はとてもしっかりしている。孫をはじめ、みんなの名前は
「さん」付けで呼ぶ。普段は割烹着で過ごす…。
と、わりとスタンダードなおばあちゃんなのですが、
光一と二人で出かけたときにものすごい技を見せます。

突っ込んで来た車から瞬時に下がり、車を止めるように手を
出したこと。一瞬の出来事であり、光一は我が目を疑い、
次にばあちゃんの能力を疑います。いきなり掴まれますね。
ばあちゃんは人間ではないのか!?これはSFだったのか!?
と思いきや。

トレーニングの成果なのですね。ばあちゃんは「立禅」という
立ったまま行う禅を毎日行っているんだとか。
毎日やっていればすごいことになるのか!と感心したので
自分も試しにやってみましたが、5分で挫折し、おまけに
翌日両腕がひどい筋肉痛に見舞われてしまいました。
ちなみにばあちゃんは毎日30分行っているそうです。
完全に80歳以上のばあちゃんに負けとるやんけ…。

そんな素晴らしい体?をお持ちのばあちゃんですが、バスに乗れば
腰を曲げてヨロヨロと歩き、座席を譲ってもらったりもします。
そして譲ってくれた人としばしの会話を楽しむのです。
相手の方も喜んでくれるような、素敵な会話術もお持ちです。
席を譲ってもらいながら、その相手に何かを与えている、そんな
印象を受けます。

そして注目すべきはそのお料理。 まずは釜で炊いたご飯。
ツヤツヤと光っていて、美味しくないわけがない!そこに合わせるのは
イワシのぬかみそ炊きに漬物などなど。ご飯が進む進む!
描写を見ているだけでもよだれが…。
お昼はラーメンとかうどんで済ませていた光一も、その美味さに
ご飯をかきこむのです。ああ、うらやましい。
人との距離を縮めるのに、ご飯は重要なファクターになりますよね。
ばあちゃんの教え子たちもこうしたおいしいご飯をご馳走になって
心をわしづかみにされたようです。

ばあちゃんの元教え子や光一の家に、さまざまなトラブルが起こります。
それを、ばあちゃんはちょっとした嘘を交えながら、実に上手に
三法が丸く収まるように解決していくのです。
こうした解決力はちょっとやそっとでは身につかないでしょうが
ぜひとも見習いたいところです。

強いけれど強く見せない。押すところは押すけど、引き際も
しっかり見据える。
そして、何より食べることなどの毎日の事をとても丁寧に行っているということ。
日々の暮らしをひとつひとつ丁寧に行うことで、料理はよりおいしく、
食べる者の心を打ちます。そして体は鍛えた分だけ動きで応えてくれます。

やれと言わずに行動を持って、あるべき姿を教えてくれている、
やさしくて、強くて、しなやかでお茶目なスーパーおばあちゃん。
こんなおばあちゃんが近くにいたら、幸せのおすそ分けが
もらえそうです。

不器用でまっすぐでオタオタしていて、そして愛しい物語

ビオレタ』の

イラストブックレビューです。

([て]3-1)ビオレタ (ポプラ文庫)

([て]3-1)ビオレタ (ポプラ文庫)

 

婚約者から突然別れを告げられた田中妙は、ひょんな事から
雑貨屋「ビオレタ」で働くことになった。
そこは「棺桶」なる美しい箱を販売する風変わりな店だった。

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人の発言を先回りして想像し、言いたいことを言わなかったり
ごめんとあやまってしまう妙。そのくせ、感情が爆発して大声を出して
しまったり、表情に気持ちが表れてしまったり。
何とも子どもっぽくめんどくさい女性ですが、なぜか憎めない。
それは、とても素直な一面を持っているから。

自分の面倒を見てくれた雑貨屋の店長、菫さんと仲間になりたい。
とりあえず付き合った相手を本気で好きになりたくない。
誰かに必要とされたい。

隠そうとしても態度や表情に表れてしまう妙は、子どもっぽくもあり、
でも子どもじゃないと自覚しているから、自分で何とかしようと
足掻いています。しかも不器用だからうまくいかないのです。
そんなところが読者の共感を呼ぶのだと思います。

この雑貨屋「ビオレタ」には棺桶が売っています。
お客さんは埋めたいものをその棺桶に収め、蓋をし、
店の庭へ埋葬するのです。

そうしたお客とのやりとり、身体も態度も大きな店長の菫さん、
菫さんの息子、とりあえず付き合った彼氏、そして妙の家族。
さまざまなな人たちと日々を過ごす中で、失恋の傷をぶり返したり、
治ったと感じてみたりします。

やがて妙は、いろんな人に愛されていることに気づいていきます。
それは、周りの人が教えてくれたのではなくて、妙自身が
心を開いて周囲を眺める事が出来るようになったから。
自分を縛っていた価値観から解放されて、そのままあることを
自分にも他人にも許したこと。
それに気づいた妙は、体は小さいけどひとまわり大きな人間へと
成長したのだと思います。

物語全体が穏やかながら途切れさせず、時にクスリと笑わせてくれるような、
心地よいリズムを生み出しているのは、登場人物たちの会話によるものです。
過去を話すときは突然敬語になる菫店長をはじめ、妙も昭和っぽい
独特の言い回しをしたり、彼氏からのお誘いに対する返事とかがおもしろくて、
思わず吹いてしまいました。

とても心地よく世界に引き込んでくれて、クスリと笑い、ちょっぴり泣いて。
心がジワリとあたたかくなるような、そんな物語です。

 

 

 

ハードボイルドな女探偵は四十肩

静かな炎天 』の

イラストブックレビューです。

静かな炎天 (文春文庫)

静かな炎天 (文春文庫)

 

 

ひき逃げで息子に重傷を負わせた男の素行調査。
疎遠になっている従妹の消息。依頼が順調に解決していく
真夏の日、女探偵の晶はある疑問を抱く。
タフで不運な女探偵、葉村晶の魅力溢れる短編集。

 

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短編集ですが読みごたえあります。
四十過ぎの独身女性。普段はミステリを専門に扱う
吉祥寺の古書店でアルバイトをし、依頼があったときだけ
探偵業を行う、というスタイル。

葉村晶、という女性は不思議な魅力があります。
探偵業のキャリアは十数年。ベテランです。
そのせいか、落ち着いていていつも冷静に物事を見ています。
感情に流されることもあまりないようです。
ただ、理不尽な犯罪者や高圧的な警察の態度には
腹わたが煮えくり返って、時には反撃することも…。
そこも人間らしくて素敵な一面だと思います。

さて、自分と同世代の晶。
かなり優秀な探偵さんのようですね。
女性が1人で探偵業となると、大丈夫かしら?
危ない目にあったりしないかしら?と心配してしまいますが
むやみに危ないところへ突っ込んでいくこともなく
上手に仕事をこなしている姿が印象的です。
それでも以前は痛い目に遭うこともあったようですが…。

そんな晶が四十肩に見舞われてしまいます。
肩が上がらない。食事でモグモグしているだけでも響いて痛い。
バスで隣り合わせた乗客と肩が触れ合えば痛さのあまり悲鳴を上げそうになる。
そんなに痛いのか、かわいそうに…と思っても
古書店の店主は容赦なく彼女に仕事を押し付けると言う…

うう、気の毒です。
そしてまた晶も自分なりに出来る範囲で仕事するんですね。
仕事ができる人でも、体調不良には勝てません。
そして働かざるもの食うべからずという考えもしっかり身についています。
本人も年齢とともに回復力の衰えを感じていて、
歩く距離を増やすなどの対策を講じているというのに。
その矢先の四十肩ですから、なんなんだよと言いたくもなりますよね。

この本に掲載されている事件たちは、さまざまなやるせなさ
がつまっているようです。
飲酒運転により、死亡事故を起こしたのに、その運転者は
服役後にまた飲酒運転をしている。
人徳のある町内会の会長がしようとしていたこと。
無実を証明しようと立てこもってしまった元プロレスラー。

被害に遭った人たちは、日々のつらさを噛みしめるようにして
生きています。晶は、依頼案件を解決することで、すこしでも
そのつらさが緩和されるといい、と思っているのではないでしょうか。
でもしっかり寄り添って、慰めるのは苦手、というのがまた
彼女らしいところでもありますね。

そして作中には、ミステリ作品がいくつも登場します。
晶のバイト先がミステリ古書専門店、ということもあり、
定期的にフェアを開催したり、お客を集めてイベントを行ったり
しています。

こうした情報も楽しいです。
たとえばミステリ・ティーパーティの企画の話では、和菓子なら
坂木司先生を呼んで和菓子のお茶会を、とか
アガサ・クリスティならバートラム・ホテル風のお茶会に、
なんて話が出るわけです。

これはもう、ワクワクしてしまいますね。
本から広がっていく世界には本当に際限がなくて、楽しいです。
こんなお茶会をしている書店があったら行くのに〜!!
なんて身悶えしてしまいました。
でも和菓子も洋菓子も苦手なんですけどね(苦笑)。

嫌な事件もありますが、晶も浸っていられないほどに
古書店店長の富山はいい具合に傍若無人ぶりを発揮しています。
調査に出ずっぱりでようやく終えた晶に向かって、今すぐ
出勤してね、とか。
ひどい。
そして晶の話も聞いてない。
いるなあ、こんな人。
でもお話が暗くなりすぎないのは、この方の力が大きく働いて
いるのは間違いありません。

四十肩を抱え、疲れが1日では取れなくなってきた女探偵。
そんな彼女だからこそ解決できた事件たちは、彼女に
扱われて良かったね、と思うような内容です。
優秀で、クールで、ウェットなのはちょっと苦手、でもって
なぜかちょっぴり不運な女探偵物語です。

 

 

自律神経を整えると人生が変わる!?

まんがでわかる自律神経の整え方 「ゆっくり・にっこり・楽に」生きる方法』の

イラストブックレビューです。

 

だるい・ストレス・不眠・不安・イライラ・焦り・緊張・
肌荒れ・便秘・免疫力の低下…。
心身の様々な不調は自律神経を整えると改善します。
その改善法をわかりやすくマンガで解説。

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マンガ家一色美穂さんが、自律神経研究の第一人者、
順天堂大学教授の小林弘幸先生に、日常でできる自律神経の
乱れを整える方法を教わります。

一色さんはマンガ家という職業のせいか、深夜まで作業を
行ったり、食事時間も一定にならないなど、不規則な生活を
送っています。そして、朝は起きられない、肌の調子が悪い、
すぐに怒ったり落ち込んだりする…などなど、心身に
不調が起こっています。

一色さんのくたびれ具合や、解説に衝撃を受けるシーンなど
表情が豊かで、ユーモアたっぷりに描かれています。
仕事が忙しくなると生活が不規則になり、なんとなく不調な
状態が続いている…という状況は、だれにでも起こりうる事です。
その様子をわかりやすく、おもしろく、端的に伝えてくれます。

そして、医師として解説している小林弘幸先生。
一時期、著書『なぜ、「これ」は健康にいいのか』が話題となり、
年間10冊くらい本を出していらした時期もあったのではないでしょうか。
今回の自律神経の整え方は、『なぜ「これ」は健康にいいのか』の
マンガ版に近いかもしれませんね。
ただし、本書は自律神経がうまく働いていない実際の人物が、
自ら自律神経を整える行動を試してみるのに対して、
『なぜ「これ」』は 医師から一方的に解説するもの、という違いでしょうか。

自分の意思と関係のないところで、体がうまく動くように
勝手に働いてくれる自律神経は、交感神経と副交感神経の2つ。
交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキの役目になります。
朝起きてカーテンを開けると、交感神経が刺激されて目が覚め
体も起きて活動状態に入ります。
夜には副交感神経が優位となり、体を休めることができるのです。

不規則な生活により、これらの神経の働きが乱れると、
夜に眠れなくなったり、朝起きられなかったり。
眠れなければ肌も荒れてきます。イライラもするでしょう。
シンプルなのですが、早寝早起きは自律神経の働きを
最大限に活用し、活動のパフォーマンス上げるのに最も
適した方法と言えるのです。
あ、やっぱり『なぜ「これ」は健康にいいのか』と同じだ(笑)。

『なぜ「これ」』を、を読んだ人でも、本書はマンガで解説していることで
よりやさしく、わかりやすくなっているので、復習するのに
適しているのでないでしょうか。

自律神経についてひと通り説明した後は、いよいよ自律神経の
整え方です。
笑顔で深呼吸、ゆっくりを心がける、といった、そんな簡単な
ことで!?と思うようなことも、なぜ良いのか、ということを
わかりやすく解説してくれるので納得できます。
この意識しながら行う、というのが非常に大切なことなのだと
思っています。

他には自律神経が整う夜の過ごし方、自律神経が整う朝の過ごし方、
自律神経を味方につける仕事術などを紹介。
どれも難しいことはなく、やろうと思えばすぐできる内容です。

体は 目に見える部分ではなく、目に見えない部分も頑張って
くれています。自律神経は、人間を生かそうと休みなく
働いてくれているのです。
そうした、見えない部分にも目を向ける、意識する事が
大事なのだなあとつくづく感じました。
そのよう意識して生活していれば、自律神経は必ず応えて
くれて、私たちの心と身体を生き生きとしてものへと
変えていってくれるのです。

自律神経が整う環境は、人間が最も快適に過ごせる生活。
状況によっては、そのように過ごす事ができず、自律神経が
乱れてしまうこともあるかもしれません。
でも、こうすればまた整える事ができるぞ!ということを
知っていれば、心身の調子をひどく崩すような状態になるのを
防げるかもしれません。
または、自分の心身に日頃から注意を向けることで、
今の状態は良くないから変えよう、とか、そういった対応力も
できてくるかもしれません。

自律神経って、結構大事な仕事してますよ。
気にしたことないなあと思った方、最近ダルい、調子悪いと
思っている方。手軽にマンガで自律神経について学んでみませんか。