ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

「私」が選んだ自由への道とは

フリー!』の

イラストブックレビューです。

編集

 

広告代理店のデザイナーとして働く緑川千春は37歳、独身、彼氏あり。
人手不足による残業、改善を図ろうとしない上司たちに限界を感じて退職。
しかし、千春に待ち受けていたのは、想像以上に厳しい現実だった。
千春が唯一、ひと息つけることができる日本酒バー「drop」で出会った
人たちとの交流が、千春の人生を変えていく。

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連日続く、終電までの残業。コンビニのご飯を流し込み、部屋の掃除や
洗濯をする時間も気力もない。彼氏が部屋に来ても足の踏み場もない。
会社に行けば、女性社員にお茶汲みをさせる上司にイラつきを隠せない。
それを納得してやっている、と明言し、早期退職制度利用してサラッと
会社を辞めた後輩の女性にも。

仕事が好きだとわかっていても、限界以上の働きが続けば落ち着いて
物事を考えることは難しいでしょう。人員削減で誰もがいっぱいいっぱいの
ところに来て、これまで男女問わず、飲みたいものが自分で飲み物を
用意していたのに、「お茶は淹れるのは女性の役目」という考えの上司が
来てからは、ますます千春の思考と行動は空回りしていくようです。

このような職場は今は珍しいのでしょうか?セクシュアルな役割、というのを
社員に押し付ける年配の方はまだまだ多くいるのではないかなと思って
います。人によっては小さなことかもしれませんが、こうした事が積み重なって
いくと、あっけなく限界に達してしまうことはよくあります。

千春も限界が来て、退職を決意します。衝動的に、かつノープランで
辞めたために生活もギリギリ。ハローワークに通っても、自分が考えているような
条件の会社は見つかりません。これも、冷静に考えて転職先を決めてから
今の会社を辞めれば、確実にステップアップできて、こうした苦労はなかっただ
ろうに、と思います。ですが、長く働いた会社でもうちょっと頑張ろう、と
思いながら限界ギリギリの日々を過ごしていたために、計画的に辞めるという
判断もできなかったし、感情的に行動を起こしたからこそ、退職できたのかも
しれません。

彼氏からは結婚も匂わされますが、先行きがわからない身では結婚など
考えられない、という千春。彼氏も連れてきたことがない、自分の息抜きの
場所である日本酒バー「drop」で、昔付き合っていた歳の離れた彼氏のことを
思い出したりしています。

そして、この店で知り合った人たちと交流を始めるうちに、千春の人生に
変化が訪れます。これからの仕事の広がりのきっかけとなりそうな、単発の
仕事の依頼の受託。やはりデザインの仕事が好きだという喜びと、納期までに
間に合わないかもしれないという不安。受けた仕事の成功と失敗。今の彼が
離れていきそうな予感。新しい働き方のカタチ。

千春にとって、会社を辞めてから、怒涛のように人生が動き始めます。
一見、辛いことばかりのようにも見えますが、それは次のステップに踏み出すために
必要な出来事だったのでしょう。一連の出来事は、千春に変わらずにいるものは
何もない、変化を受け入れる、なくしたものに執着しない、といった新しい
強さをあたえてくれたようです。

会社などの庇護から外れ、自分自身で生きていくことを決めた千春。
そこには、これまでと違い、自分自身に責任が発生することでもあります。
その覚悟をまるごと呑み込んで手に入れた自由は、彼女だけのものであり、そして
彼女をより強く、確実に歩き出すための力となるのです。

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