ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

女である限り、その選択は必ず訪れる

産む、産まない、産めない』の

イラストブックレビューです。

編集

 

40歳独身で、突然の妊娠に戸惑う桜子、不妊治療を続けるが、なかなか子どもを
授かることができない39歳の重美、開業医である妻が妊娠し、育児休暇を取る
ように言われた31歳の雄二。妊娠や出産をめぐる心の葛藤や喜び、そして人生の
選択を描いた8つの物語。

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外食産業のイタリアンレストラン事業部に勤める桜子は勤続18年目。
新メニュー開発、価格決定、店員の採用まで、幅広く手がけていて、
外食をすれば、メニューに使えるかな、と常に仕事のことを考えています。

新たに開発したメニューが評価され、出世の道も開けるか…と思ったところに
妊娠が発覚します。相手は交際もしていない、顔見知りの26歳の男性で、
酔った勢いで2度ほど体を重ねたのでした。

20年近く会社に勤め、女性であるから仕事をきちんとしないで困る、と言われたり
逆に仕事をきちんとしていれば結婚や出産の話をするのに相手に気を使われたりと、
仕事は楽しいのに、単純に楽しめない環境でもあります。
そんな中でも、頑張って働き続けてきた自分は、出産したらもとのように働くことが
できるのか、年齢からいっても、妊娠、出産は最後のチャンスかもしれない、
そして初産で高齢出産…と悩ましい問題が山盛りです。

不安を抱えて訪れたクリニックで、自分が未婚であることを告げた桜子に対し、女医は

「そうみたいですね」
淡々としているが、冷たい感じではなかった。書類から視線を動かし、しっかりと
桜子の目を見据えていった。
「おめでとうございます」
その言葉で心をつつかれて、涙があふれた。

この瞬間、桜子は子供を産むことを決意したのでしょう。
自分に宿った命とともに人生を歩むこと、それが自分の選ぶ道だと理解したのです。

桜子の凄いところは、お相手の男性といっしょになる、という選択肢を持たなかったこと。
年下すぎるからなのか、相手といっしょに生きていく、いっしょに子どもを
育てる、という意識を持てなかったからなのか。それは彼女にしかわかりません。

桜子を待つ未来は決して平坦な道ではないでしょう。
しかし、桜子は後悔することはないと思います。仕事と同じように、やってくる
困難を乗り越え、子どもの成長に喜びを噛み締めるのでしょう。

他にも、不妊治療を続ける女性や、妻に変わって産休を取るために奔走する男性、
高校生の娘が妊娠してしまったシングルマザー、長女が死産だった女性など
妊娠・出産に関わる男女の物語が合計8編掲載されています。

女性である以上、必ず訪れる選択が「産む」「産まない」「産めない」。
その選択の裏には、自分の夢や希望、そしてプライド、身内から押し付けられる
常識、仕事場からのプレッシャーなど、多くのものが潜んでいて、彼女たちは
常にそれらと戦っているのです。

この物語に出てくる登場人物たちは、妊娠・出産という喜ばしい状況に甘えすぎる
事なく、現実を理解し、立ち向かっていく人たちです。あらゆる世代の女性にも
もちろんおススメなのですが、あらゆる世代の男性に、むしろ手に取っていただきたい。

周囲にいる女性の中に妊娠、出産、そして産まない事に対して傷ついたり、我慢して
いる場合があります。そうした事に理解を示し、少しでも互いに心地よく過ごせる
職場や家族を作れるよう、考えるための参考図書として活用して欲しい一冊です。

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