ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

まっすぐに、心を突き刺す青春ストーリー。

読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!

https://shimirubon.jp/columns/1691046 

 

おとめの流儀。 』の

イラストブックレビューです。

 

中学一年生になったさと子は、『なぎなた部』へ入部。
部員不足により、いきなり廃部の危機にさらされたが、心もとない
メンバーが集まり何とか回避。しかし、部長の朝子さんから告げられた
部の目標は「剣道部を倒す」ことで…!?十三歳、部活も人生も真剣勝負
なのです!

 

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母子家庭で、しっかり者に育ったさとこ子。なぎなたを小学生の頃から
やっていたので、迷うことなくなぎなた部へ入部。しかし部員は部長の
朝子さん一人。
期日までにあと三人集まらないと廃部になるというのです。
何とか集まったメンバーは、運動が苦手な幼なじみや、岩のような
体格のクラスメイトの男子など、不安を感じる顔ぶれ。

ほぼ初心者の集まりである部員に、朝子さんが告げた一言は
「剣道部を倒す」ことでした。もともとは剣道部に入部しようと
見学をした朝子さんでしたが、剣道部に女性はおらず、女ならなぎなた部へ
行け、と言われました。最初は拒否していましたが、やがて武道をやることに
男女の区別があるのはおかしいのでは、という気持ちになり、なぎなた部へ
入部したのだと言います。

最初は朝子さんの指導を理解できなかったり、体が追いつかなかったりして
くじけそうになった部員もいましたが、やがて少しずつ力もついてきて、
各部員なりに成長していきます。

一方、経験者であるさと子はスランプに陥ります。その影には、彼女の
家庭の事情が透けて見えるのです。父親という存在について、長らく
ピンとこなかったこと。母親に聞いても「父親は最初から存在しない」と
言われたこと。どうやら父親は実際はどこかで生きているらしいということ。

父親がいないことで、うっかり者の母親をフォローするべく頑張ってきた
さと子ですが、なぎなたの伸び悩みや、迷いからそのしっかり者であろうと
する頑張りが効かなくなってきます。

さと子は公園にいる浮浪者風のおじさんと、たまに会話を交わして自分の迷う気持ちを
聞いてもらったりしています。心の奥底にある父親が欠けているという部分を
この浮浪者風のおじさんに埋めてもらっていた部分もあるのかもしれません。
小学生までの彼女は、父親がいないことについて、追求して考たり結果を出す術を
持たなかったわけですが、中学生にもなると成長するし、事情も変わります。

この浮浪者風のおじさんは、記者経験があり、調べものが得意なのだとか。
さと子の父親について調べ出し、ざっくりとした情報を提供してくれ、その情報をもとに
さと子は電車を乗り継いで父親の職場へと向かいますが、何せ情報不足。
会えないままに自分の家へと帰ってきます。
父に会いに行き、そして会えなかったことを、さと子は母親に話すことが
できませんでした。母に心配をさせてはいけないから、と。
とことんまっすぐでやさしいさと子なのです。

剣道部対なぎなた部の勝負は、緊張感が漂い、読むほうも手に汗握ります。
集中力、瞬発力。相手を利用する力。さまざまな要素が武道にはある
のだという事がわかります。相手の元へ踏み込む動の部分と、相手に
踏み込める瞬間を見極める静の部分。単なる技術だけでは勝つとは限らない
世界なのだという事を教えてくれます。

なぎなた部員が入部前に比べて、技術的にも精神的にも大きく成長しています。
部長の朝子さんも、常に自分と闘っています。そして迷いの取れたさと子が
自分より格上の相手との対戦するシーンは圧倒です!自分自身の壁を破ったさと子の姿に
良かったね!と声をかけたくなります。
皆が精いっぱいに、手を抜かずに全力で生きている。
その事がよく伝わってくる青春ストーリーです。