ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

猫が残していった爪痕がいつまでも心に残る

猫鳴り』の

イラストブックレビューです。

 

結婚十七年、ようやく授かった子供を流産し、悲しみの中で日々を過ごしていた
信枝と夫の藤治。家のそばに現れた子猫は、モンという名前を付けられ、夫婦に
育てられた。傷ついた夫婦に寄り添い、心に闇を抱えた少年の心を見透かすような
不思議な存在感を持つモンが、その生涯を終えるまでの人間との関わりを描く。

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家の近くに現れた子猫は怪我をしていましたが、信江は子猫をまた捨てにいきます。
流れてしまった子供を思い出させるような小さな命に目を向けたくなかったのです。
夫婦の間でも、その話題を避けてすごしていたのですが、藤治から子猫を飼うことで、
子供のことを思い出してやろうと言われ、猫との生活を決意します。流産以来はじめて
夫との会話で子供の事が話せたことで、沈んでいた闇から光が差し込んだかのようです。
ぎこちなく、気を使いあっていた夫婦の間を猫が潤滑油となって、動きを良くして
くれたのですね。

モンと名付けられた猫は夫婦に育てられ、病気もせず元気に育ち、立派なオス猫に
なりました。顔が可愛くない、というのも猫好き読者としてはキュンとくるポイント
ですよね。ブサイクであればあるほど、うちの子は絶対可愛いのだ!と飼い主は
思うもんです。

モンはブサイクだけど、ナワバリ争いでは負けない強さを持っていて、人なつこい
部分もあります。そんなモンに遭遇してしまったのは、中学生男子。何となく
不登校になり、登校するきっかけも掴めず、父親に昼食代としてもらったこづかいを
手に持って、公園などをうろついています。母親がおらず、不登校でも心配してくれる
ような友人もおらず、ネットをしたりブラブラしていた少年は、小さな子供を傷つけ
たい衝動を覚えます。それもよちよち歩きの男の子の赤ちゃんです。

ポケットの中にナイフを隠し持ち、子供を傷つける様子を想像していましたが、
だんだんと思考がエスカレートし、衝動が抑えられなくなり…。
何とか踏みとどまった少年は、父親が拾ってきた子猫を育てはじめますが、子猫は
もともと具合が悪く、あっけなく死んでしまいます。そんな子猫を埋めてやろうと
したところ、何とその死骸をモンに奪われてしまうのです。

驚き、怒る少年をジッと見つめるモンは、『お前がしようとしていたことはすべて
知っているぞ』と言わんばかりの表情。実際のところ、猫が人間を見つめる表情は
何かを訴えているように見えることもしばしば。後ろ暗い思いをかかえている時には
なおさらドキッとしてしまいそうです。

そして、大きく、力のあるオス猫のモンも寿命を迎える時がきます。
モンは何と、ハンストします。信江を失い、モンと過ごす二人の生活もしっくりと
馴染んでいた藤治は、動揺し、獣医に見てもらいます。しかし、獣医は猫自身が望んで
起こしている行動だ、と言うのです。ハンストしてまでモンが藤治に教えたかった
ことは何なのか。それに気づいた藤治の描写には、もう涙が止まりません。

猫という存在は気ままに過ごし、いつの間にかそばにいて、人が撫でると気持ち
良さそうにゴロゴロと喉を鳴らします。この音を聞くと、何故だか人間もとても
幸せな気持ちになります。難しいことはとりあえず置いておいて、この柔らかな
手触りの、小刻みな振動に身を任せていれば、難しい事は何も考えなくていいんだ〜
となるのです。あ、わたしだけでしょうか。

人が心に抱える、冷たく暗い塊も、猫のゴロゴロがその塊を揺らし、柔らかくして
少しずつ薄く、小さくしてくれるのかもしれません。猫たちは、人間を見守り、
彼らなりに力になってくれようとしたり、時には生きることについて教えてくれる
のです。

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