『ぶたぶたの食卓 (光文社文庫)』の
イラストブックレビューです。
見た目は愛らしいぬいぐるみだが、中身は心優しき中年男・山崎ぶたぶた。
彼が作る料理は、どこか懐かしく切ない思い出の味だ。
大好きだった祖母が作ってくれたチャーハン、遠い夏休みの記憶を喚び
起こすかき氷…それらが、傷つき疲れた人々の心をときほぐし、新たな
一歩を踏み出す勇気を与えてゆく―。
心の奥をほんのりと温めてくれる、傑作ファンタジー。
ぬいぐるみが主人公、必ず食にまつわる物語、というしばりがありながら
シリーズはもう20冊近くも出ている。
こういったファンタジーものも嫌いではないので、買ってはみたものの
まさか10冊以上買い続けるとは思わなかった。
このぬいぐるみのぶたぶたさん、見た目がほんとにかわいいぶたのぬいぐるみ。
そして中身が節度ある、とてもやさしい中年男性なんです。いいですね。
料理にまつわる物語ですから、まずはぶたぶたさんが何か料理を作ります。
その料理する姿を見て登場人物は驚き、周囲の人がナチュラルに彼に
接している事に2度驚き、そしてかわいい見た目に反してとても常識的な
思いやりのある中年男性であることに3度驚くわけです。
これはどの話でもパターンとして出てくるのですが、不思議と飽きない。
きっと登場人物の年齢や性別、生きてきた環境が違うために、ぶたぶたさんを
見た反応も千差万別だから、ということなのでしょう。
今回のぶたぶたさんはさすらいの料理人よろしく、料理教室の講師をしたり
カフェのマスターをしたり。
なかでも印象に残ったのは、祖母が作ってくれた思い出のチャーハンの話。
若いOLがふと入った中華屋で思い出の味に出会う。このチャーハンの味を
提供してくれたのは・・・ ぶたのぬいぐるみ。
ぶたぶたさんにチャーハンのレシピを教えて欲しいとお願いしたところから
祖母の空白の期間が明らかになってくる。そして、祖母がOLの彼女と、彼女の家族を
広く、心から大事に思っていた事も。
心のちょっぴりひりつく部分を、やさしく手当てしてもらっているような
そんな気分にさせてくれるファンタジー。
20代のOLから50代のサラリーマンまで、幅広い年代に楽しめる作品です。