ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

顔の見えない相手との闘いの果てには

スマホを落としただけなのに囚われの殺人鬼  』の

イラストブックレビューです。

 
 

 

丹沢山中連続殺人事件」の犯人である浦井が所持していたPCを調べていた、
神奈川県警生活安全サイバー犯罪対策課の桐野良一。新たな死体が発見され、
その犯人捜査のために浦井に協力を要請する桐野に対し、浦井はある取引を
持ちかけてきた…。

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スマホを落としただけなのに」の続編。
民間企業出身で警察に転職したという変わり種の桐野良一が登場します。
前回逮捕された連続殺人鬼の浦井が犯した殺人の中で、浦井がやっていない
と主張するものがありました。桐野は指示された通り浦井のPCを調べ、殺された
女性との接点を探しましたが、どこにもやり取りをした痕跡は見当たらなかったのです。

一方で、仮想通貨五八〇億円相当がハッカーにより盗まれたというニュースが
世間を騒がせます。そしてその盗まれた通貨にマーキングしたホワイトハッカー
いたのですが、この女性が死体となって発見されます。この事件の裏には伝説の
ブラックハッカー、『M』が絡んでいる事が判明し、捜査に臨む警察でしたが…。

警察のネット犯罪に対する脆弱さが浮き彫りになる事件です。ハッカーからの攻撃に
対する防御はイタチごっこであり、厄介なタネをばらまくだけのハッカーに対し、
あらゆる芽を摘んでいかなければならない防御側の人間の方が圧倒的に負荷が高く、
処理できる人間の数にも限りがあります。

警察の現状では、ネットを介した犯罪は手も足も出ない一面を持っている、という
ことに、背筋が冷たくなります。PCはもちろんのこと、スマホも手軽にハッキング
する事ができ、ターゲットの行動や会話が筒抜けになるのです。

『M』の捜査のために、ネット関連に詳しい連続殺人鬼の浦井へ協力求めることに
なった桐野は、浦井と会話を交わすうちに彼に対して違和感を感じるとともに
共感する部分も感じるのでした。ハッカーが防御を打ち破って侵入する事は
腕試しであり、ワクワクする要素がある、という所に共感を得たのです。

やがて桐野の恋人のスマホまでがハッキングされたことで、逆にこのスマホ
使って犯人の動きを見ようとする桐野でしたが…。

現場で発見された死体は多数。そのうち数体を確実に殺している浦井、そして
それ以外の死体は一体誰が、いつ殺したものなのか。読者になんとなく匂わせつつ、
一気に動き始めるラストではその犯人が二転三転します。
全体的にスピード感溢れる展開で、読者を飽きさせません。

あっと驚くラストには、ひょっとして第三弾もあり…?といった匂わせも。
ハッキングなど、ある程度の技術を持った者たちは、善も悪も紙一重
逆にそうであるからこそ、どこまでもPCやウェブ上に転がった情報を
どこまでも追い続けていけるのかもしれない。そんなことを感じた物語でした。

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足りないものを抱えた者同士が寄り添う形を描く

ファミリー・レス 』の

イラストブックレビューです。

 

姉と絶縁し、シェアハウスで暮らすOL。妻の親族に興味を持てない画家。
未来を考えないことで離縁された男。姉の忘れ形見である娘の、本当の母親に
なりたい女教師。何かが欠けた6人の男女を描く連作短編集。

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シェアハウスで暮らし始めたOLの希恵。姉が子どもを産み、実家の母親が
しきりと赤ん坊の写真をメールで送ってきます。同じシェアハウスに住む
毒舌の葉月に写真を見せるが、エイリアンみたいだとか、名前のつけ方の
センスが最悪だとか、相変わらず手厳しい発言です。

生活リズムが近い希恵と葉月は、食事の時間を共に過ごしたり、服の貸し借りを
したりしていています。やがて二人の距離は少しずつ近づいていきます。
そして、ある夜希恵は、姉の子供は自分が付き合っていた彼との間に
できた子だという事、胸に抱いていた姉への思いを葉月に吐き出します。

希恵は他人である葉月に、全てを理解して欲しいと思ったのではないのかも
しれません。それでも、母親から刷り込まれた考え方によって、姉を悪く思う
事ができず、相手を罵る言葉さえも発する事ができずに抱え続け、引き裂かれた
心の傷を、葉月の毒舌によって少しだけ癒される事ができたのです。

また、愛する妻の親族に興味を持てない画家の鉄平は、売れない絵を描いていて、
妻の万悠子が働く給料で生活を送っています。2人は何の問題もなく暮らしているの
ですが万悠子の親族からの風当たりが強いのです。そんな中、万悠子の従妹の結婚式に
二人で出席することになり、式の後には彼女の祖父母の家に泊まることになりました。

祖父は目が見えないのですが、家の中であれば問題なく生活できます。
祖母は鉄平の絵が理解できないことや、万悠子が働くことで生活していることに不満があり
鉄平に対する嫌悪感を隠そうとしません。説得する気もない鉄平でしたが、親族の中で
たった一人、万悠子との結婚を賛成したという祖父と、酒を酌み交わします。
そこで話題に出たのは、万悠子の子供の頃の話で・・・。

他人同士でありながら、万悠子を好きな部分が同じである祖父と鉄平。
そこには穏やかなつながりのようなものが感じられます。
全てを周囲にわかってもらえなくてもいい。そのつながりをわかるものだけが、感じ、
理解できればいいのだよ、と伝えてくれているようです。

ほかにも、何かが欠けている男女が登場し、何かを見つけていきます。

「家族」であるがゆえに近すぎて生じる葛藤、「家族」なのに遠すぎる戸惑い、
「家族」ではないからこそ感じる安堵と寂しさ。「家族」という名のピースが
欠けてしまった者たちが抱える孤独は、完全になくなることはないのかもしれません。
しかし、違う形で、その孤独が少しでも救われることがある。そんな瞬間を丁寧に
描いた、心が揺さぶられるような短編集です。

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世にも奇妙な、それでいて身近に感じる世界

世にも奇妙な君物語  』の

イラストブックレビューです。

 

 

はじめに感じたのはほんのわずかな違和感。それがみるみる間に膨れていき、
後戻りできない状況になっていく。そんな、朝井リョウ流の「世にも奇妙な物語」。

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それそれがリア充に見える者たちが集まるシェアハウス。彼らがそこに住む理由は
何なのか。コミュニケーションをはかる裁判で下される審判と、現実世界での
生き様の違い。子どもの未来を考えてひた走る、情熱的な幼稚園教諭が得た結果と
その真相。様々なシチュエーションで、朝井リョウが「世にも奇妙な物語」を
展開していきます。

ひとつひとつを短編としても楽しめますし、それらを踏まえた上での最後の話の
意外な結末など、巧妙に仕組まれた構成上からも楽しむことができます。

どの話も、それはさすがにないだろう、と最初は思わせるのですが、いやちょっと
まてよ、ひょっとしたらありなのかもしれないぞ…?と思わせるリアルさは、
登場人物たちが発する心の動きや、物事の展開からの行動が、自分もしくは自分の
周囲に「あるある」または「いるいる」と感じさせるから。

そして、物語たちに含まれる毒が、今の時代、単純な一面では済まされない、油断
していると足元掬われちゃうよ、というメッセージとして私たちに送られているようにも感じます。

緊張感があり、間断なくひっきりなしにやりとりされる現代のコミュニケーション、
そして人との表面的な関わりと内面的な関わり方のメリットデメリットを、冷静に
描き出しています。
人と関わるということ、自分のあり方を理解して行動・発言することの難しさを
軽やかな文章で、しかし深く刺す物語です。


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食べることで、人と人はつながっている

どこかでだれかも食べている 』の

イラストブックレビューです。

 

 

実家のロールキャベツの味、子どもの頃、留守番している時に食べたホルモンうどん、
初めて作ったはんぺん入りのおでん、会社の鏡餅で作ったあられ。いろんなシーンで、
いろんな人たちが今日も何かを食べています。そして、そこからやさしいドラマが
生まれるのです。

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姉妹が会話を交わしています。実家のロールキャベツはケチャップ味で真っ赤だった。
そういえば母親は、餃子とかメンチカツとかおはぎとか、手のかかる料理を作って
くれてたよね…。

また、あるカップルは、お盆休みに彼女の部屋で、ポテトサラダとワインを用意して、
ひたすらDVDを見て過ごすことになりました。では、ポテト好きな彼女のために、いろんな味のポテトサラダを作ってあげようと用意する彼氏…。

何気ない日、特別な日、作ってもらった料理、自分で作る料理。会社の人と、家族と、
または一人で食べる。様々なシチュエーションで食べるお話を1話あたり5〜10頁、
全21話を収めたコミックです。

姉妹が振り返る実家の味、残業の時に用意するパン屋さんのパン、願いを込めた恵方巻き、増えすぎた庭のブルーベリー。特別高級なものではないけれど、その食べ物と、それを食べる人たちがいるだけで心がほわんと温かくなるようなシーンになるのだから不思議です。

食べ物を口にするときに思わず笑顔になってしまうのは、味だけではなく、その食べ物にまつわる思い出であったり、一緒に食べた人や作ってくれた人の温かな気持ちもいっしょに口にするからなのかもしれません。

食べ物から子どもの頃を思い出す、食べ物から新しい発見をする。
食べ物とは、人と人をつなぐ重要な役割を果たしているのかもしれませんね。
あなたが今食べているそのメニュー、どこかでだれかも食べているのかも。
そう考えると楽しくなってくる、だれかとつながっていることを感じる事が
できるフード・コミックです。

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思い通りの未来を手に入れる「強い心」は作り出せる

神メンタル「心が強い人」の人生は思い通り 』の

イラストブックレビューです。

 

 

何をやってもうまくいく人が必ず持っているものとは何でしょうか。
それは「強い心」です。そして、その「強い心」は科学的に作り出すことが
できるのです。成長や変化のタイミングで訪れる人間の心の仕組み、そして
最強の行動力を手に入れるための方法、言葉の力で現実が変わるアファメーション
方法など、強い心を作り、思い通りの未来を手に入れるための具体的な方法

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私たちが日常行なっている「行動」や「選択」は、現状を維持しようとする力が
働いているのだそうです。つまり、何かを新しくはじめようとしたり、今までと
違ったことをしようとすると、自然とブレーキがかかるようです。

英語の勉強を始めたい、転職を検討している、新しい企画の提出を求められる…
確かに、これまでと違ったことをしようとすると、不安な気持ちになりますし、
その事が困難だと思われる場合は、「明日からにしよう」とか、何かにつけて
言い訳をして先に伸ばしたくなったりします。それは、現状維持をしようという
人間の機能であり、当たり前の事なのです。

でもここで仕方ないね、と諦めてしまっては本末転倒です。そうした人間の機能を
踏まえた上で、なりたい未来の自分になるための方法を解説していきます。
まずは目標の立て方。多くの人が目標設定間違えている、と著者は言います。

これ以外ない、というくらい明確な目標にすること。
常にその目標に対しての自分の位置を確認すること。

この2点に注意します。つまり、目的地と自分の位置が明確になっていることで、
そこにたどりつくために、自分は何をするべきなのかも明らかになってくる、という
わけです。確かに漠然と「お金が欲しい」みたいな目標では、行動にも繋がりづらい
ですし、関連セミナーなどに参加しても、今ひとつピンと来なかったりします。

こうして目標明確にした後は、するべき事を確実に行動に移すための手法や、感情を
コントロールする方法など、強い心、すなわち「神メンタル」を手に入れるための
具体的な方法を紹介していきます。

アファメーションや、メタ認知の力を使うエンプティ・チェアなど、自己啓発書など
ではよく見られる手法ではありますが、目標が明確になった後に実践するのでは
効果のほどが格段に違ってくるのではないでしょうか。

他人の評価ではなく、自分の評価で生きる。他人が設定する幸せではなくて自分だけが
決めた幸せを手に入れる。そんな人生を手に入れるための最強のメソッドがつまった一冊です。

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父の手紙に込められた子供達への愛

父からの手紙 』の

イラストブックレビューです。

 

 

10年前、妻と二人の子供、麻美子と伸吾を捨て、阿久津伸吉は失踪した。
二人の子供の元には、誕生日ごとに伸吉から手紙が届いていた。しかし、
結婚を控えた麻美子に思わぬ事態が訪れる。麻美子の婚約者が殺され、
弟の伸吾が容疑者として逮捕されてしまったのだ。弟を救うために奔走する
うちに、驚くべき父の真実が明らかになっていく。

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毎年誕生日に届く、父からの手紙には、娘の成長を温かく見守る様子が書かれています。失踪した伸吉は、子供達の前に姿は見せませんが、時折、遠くから子供たちの姿を眺めることがあるようなのです。子煩悩で、優しかった父親の気配を感じながら麻美子と伸吾は成長してきました。

そして、麻美子は高樹との結婚を控えていました。高樹へ対する愛情はないけれど、
家族ぐるみで付き合いのある山部の工場への資金援助を頼むために決めたのです。
弟の伸吾は、女にだらしない高樹との結婚に反対していましたが…。

その高樹が何者かに殺害され、伸吾が容疑者として逮捕されます。麻美子は
伸吾の無実を証明すべく、あちこち調べ始めます。そして、同時に描かれていく、
過去に殺人を犯し、刑期を終えて戻ってきた秋山圭一。彼らの人生が交わる時、
父、伸吉の失踪の秘密が明らかになっていくのです。

弟に迫る犯人への嫌疑、高樹の死によって絶たれた山部への援助。その結果、
父の古くからの友人である山部が自殺。迫り来る困難の数かずに、苦しみながらも
なんとか自分を奮い立たせ、麻美子は真実を追います。その健気さと強さは、
父親から受けていた愛情のおかげかもしれません。

当初、外に子供を作り、家を出て行ったと思われていた伸吉。ところが、そうではなく、秋山圭一の兄夫婦の家で起こった火災事故と密接な関係があったことが明らかになります。そして、圭一が犯した殺人も、その火災事故が関連しているのでした。

伸吉は家庭を大切にし、子供達をとても愛していました。それは麻美子と伸吾の
思い出から言っても間違いはありません。その伸吉が子供たちを置いて出て行って
しまった理由は、驚くべきものでした。

複雑に絡み合う、麻美子と圭一の現在と過去。次々と明らかになる事実に驚きの連続です。ミステリでありながら、父と娘の愛情、兄と弟の愛情など、家族をどこまでも愛し、大切にしていく者たちの姿が克明に描かれた人間ドラマです。

そして、ラストで明らかになる毎年届いていた伸吉からの手紙。この仕組みが明らかに
なった時、涙せずにはいられない、感動のミステリです。

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店長の数だけドラマがある!笑いと涙のお仕事物語

店長がいっぱい 』の

イラストブックレビューです。

 

豚バラ肉とタマネギを甘辛く煮込んだものを卵でとじる他人丼。これを
友々丼と名付け看板メニューとし、国内外に多くの店舗を持つ友々屋。
そのチェーン店には様々な事情を抱えて店長となった者たちが奮闘していた。
トラブルに巻き込まれつつも、今日も店長は誰かのために店を開けている。

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実家の蕎麦屋を継いだが、潰してしまった男、将来カフェを開きたいと
考えている若い女性、友々屋のボンクラ若社長の企画がコケた責任を取らされ、
南国に飛ばされた男性、離婚して自分一人でやっていくためにと決意して
店をはじめた女性。フランチャイズ店の店長は、本当に年齢も性別も、
家族構成も、働く環境もそれぞれに異なります。

そして、各店長が抱える悩みも、娘が自分を軽蔑しているのではないか、
ベテランバイトが他のバイトに説教しまくる、バイトが客と話してばかりで
仕事しない、プライベートでも良くしてくれる客の評判がどうも怪しい…など、
良くありそうなものからちょっときな臭いものまで、じつに様々です。

どこの店も共通しているのが、慢性的な人手不足。
バイトは決まった時間以上に働かせるわけにはいきませんので、そこらへんの
調整は店長自身でまかなうしかありません。バイトの誰かが具合悪くて休みです、
という連絡が入ると店長たちのため息が聞こえて来るようです。

そこに加えて、友々屋本社の社長がまた、曲者なのです。
2代目の若造が後を継いで社長に就任したのですが、でっぷりとした貫禄のある
肝っ玉母さん然とした前社長(現会長)と反比例な体つき。ひょろっとしていて、
弱そう。そして、現場の意見を聞こうとせず、新企画を次々と投入し、コケて、
現場が悲鳴を上げている状況です。

そこでフランチャイズ事業部のデキる女性、霧賀が各店にフォローしてまわります。
しかし、その霧賀もついにキレて、社長に現場で働いてきたらいいでしょう!と
タンカを切ります。会長の了解もアッサリと下り、ボンボンの若社長は地方の
チェーン店にバイトとして入るのです。この若社長の現場でのダメっぷりがまた
おかしいやら情けないやら。

話のあちこちに少しずつ登場する友々屋の会長、若社長、霧賀。
当初はビジネスライクに仕事をしているようですが、霧賀の出店しようと努力する
者たちへの手厚いバックアップや、会長の友々屋や元夫への思い、そして若社長が
胸の奥底に抱えていたものなどが少しずつ明らかになっていきます。

店長たちの働く環境はブラック寄りで、みな諦めて仕事しているのかな、と思いきや、
そうでも無いのです。いや、日々の忙しさに、問題を先送りにしていたり、行き詰まって
途方にくれたりすることもあります。しかし、ほんとうにに自分が求めていた答えを
見つけるのは、自分しかいないのです。

ちょっとしたトラブルがきっかけで、自分の大切なものを見つけた店長たち。
彼らこれからも友云々丼を求めてやって来るお客のために、店に立つのです。
そうしてまた、新たな問題にぶつかったり、その答えを見つけていったりするのでしょう。
笑い、涙しながらも、友々屋のみんなにエールを送りたくなる、そんな物語です。

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