ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

この一瞬は、どこかにつながっている

主題歌  』の

イラストブックレビューです。

 

職場の同僚と、女の子のかわいさについて語り合う実加。
美術大学時代の友人たちの行く末を思いつつ、自宅で
1日限りの女の子限定カフェを開くことに。

f:id:nukoco:20180729223505j:plain

文庫本で140ページ程のボリュームの物語ですが、ページを
開くと『おっ』と目を引くレイアウト。よくある文庫本よりも
行数が少ない。行間が空いてる。つまり、1ページあたりの
情報量が、比較的少ないです。

内容は、二十代女子や男子の日常を、淡々と描いたもの。
美術大学出身の仲間たち、職場、それらの場所から派生してくる
知り合いの知り合い的な、また会うかもしれないけれど、もう
会うこともないような人たち。彼氏、友人、友人の親、変な男。

女の子1人が毎日生きていくだけで、実に様々な人が関わり、
日常はドラマチックなような、そうでもないような感じで過ぎていく。
10代みたいなキラッキラな輝きはなく、
なにかを少しずつ諦め始めたような部分があったり、その分
友人には諦めないで頑張って欲しいなあ、という実加の思いが
この行間から漂っては抜けていくようです。

実加はかわいい女の子が大好きで、会社のバイトだろうが、レストランの
ウェイトレスだろうが、眺めて分析するのが好き。そして雑誌プレイボーイ
まで購入し、グラビアをじっくりと眺める。
この心理は理解できます。美しい女性は、絵画のように、宝石のように
鑑賞する価値がある。そしてその美しく感じる部分が、人によって
異なるからこそ、他人との美についての意見交換はおもしろいのです。
新たな美的ポイントを知ることは、新たな自分の発見にも繋がるから。

実加が自宅で開催した女の子限定カフェ。ここに集まった、
あらゆる女の子たち。実加が毎日過ごしているような日常が
ここに参加している女の子たち全員に、それぞれにある、という
非常にシンプルな事実に気づかされます。
彼女たちも、仕事をし、食事をし、家族や彼氏と夜を過ごし、
また友としてこうして時を共に過ごしているのです。

なんてことのない、奇跡のような時間。その一瞬は、次の奇跡へ
確実につながっている。日常はそんな奇跡の連続で成り立って
いるのです。そんなことを気づかせてくれるような物語です。

読めば読むほど好きになる 稀有な物語

書店ガール 6(遅れてきた客) 』の

イラストブックレビューです。

彩加が取手の駅中書店の店長になってから一年半。ようやく
仕事が軌道に乗り始めたと感じていたところ、本社から突然の
閉店を告げられる。
書店を舞台としたお仕事エンタテイメント第六弾。

f:id:nukoco:20180727192301j:plain

書店員を中心とした、出版社や作家など、本の作り手と売り手の
情熱と現実が詰まった書店ガールシリーズの第6弾です。
シリーズものは、徐々にその勢いが衰え、尻すぼみになりがち…
というイメージを完全に覆し、どの作品も時代と本、作り手と売り手、
そして買い手の立場を如実に表した、本好きな人であれば必ず
グッとくるツボを押さえた作品たちです。

今回は、取手の駅中書店の店長として抜擢された彩加が、スペースや
売り上げなど限られた条件の中で必死に工夫をこらし、成果をあげて
きているシーンからのスタート。バイトには、なんとラノベデビュー
した作家さんや、近くにある美大の学生もいることからポップや
フェアには工夫を凝らしたり、搬入や企画もバイトの裁量を重視
したりしています。それぞれがやりがいを見出せる恵まれた環境ですね。
その努力も甲斐があり、少しずつ売上が上向きになってきているところ。
そこで、本部から突然の閉店を告げられます。

大手の書店グループ内での、総括事情を検討した上での決定事項
ですから、どうにもなりません。そう、このシリーズ、個人レベルで
徹底的に頑張ってもどうにもならない状況が毎回出てきます。
それも、ただでさえ辛いのに、その中から何とかお客さんに楽しんで
もらえる点を見出して頑張るぞ!とか決意した瞬間にズドーンと落とされる。

これがね、すごく現実的だなあと思うのです。やる気があって、
なおかつ成果を出していても、会社の都合で奈落に落とされる。
ああ、事実だな、物語では済まされないレベルで話が展開されて
いるなあと、本当に身につまされ、共感してしまう。

だからこそこの作品がもっとも信頼出来、読者が頷くのだと思う
のです。登場人物が苦境を乗り越える偶然の要素は、ほんのわずか。
あとは限りなく、仕事に真摯に取り組み、妥協を許さない、彼らの
日常の姿勢の結果に他ならないのです。

もうひとつの目玉のテーマはメディアミックス。人気コミック→ラノベ
人気ラノベ→コミック、人気ラノベ→アニメ化…。最近ではよくある
形態ではありますが、昔から問題の多いジャンルでもあります。
好きな漫画が映画化?好きな小説がドラマ化?又はアニメに?映像で
見てみたら、原作のライブ感やイメージが台無し…。

そこでも、マンガ、小説、アニメなどの各媒体の見せ方やスピードなど、
どういったところをメインとして見る側に伝えていきたいのか、という
作り手側の意図がとてもわかりやすく描かれています。マンガや小説が、
映画やドラマ、アニメになる事に、個人的には非常に否定的だったの
ですが、本作を読んで少し考えを改めました。

アニメにしろ、漫画にしろ、それぞれのフォーマットにおいて最高の形で
原作を見せたい。そんな思いで、作り手はいるのだなあと。そこに、
思い込みの激しい編集者やら、アニメの製作者やらが関わってくると、
着地点がわけわかんなくなってしまうという。
この辺り、 ラノベ担当編集者対アニメ製作会社のやりとり、すごく
むかつきます。でもねえ、視聴者とか、読み手のために、って言いながら
原作の世界観を著しく変えてしまうのってどうよ?見ている者がおもしろいと
思わない作品に仕上がるのなら、それって作り手側のひとりよがりの
都合でしかないからね。

作り手それぞれの事情があり、ひとりの思いではどうにもなりません。
そこは、関係者全体がそれぞれの果たすべき役割を理解しつつ、
最終的に読者や視聴者に最高の作品を届けるためにはどうすればいいかを、
擦り合わせていくべきなのです。某ケモノアニメ問題を彷彿とさせる要素も
あり、今メディアミックスは各版元もカンフル剤として作品を押し上げる
ための有力な材料である、と判断している部分も強いでしょう。しかし、
それは製作側を疲弊させる諸刃の剣であることも念頭に置き、長期に
わたって展開させる計画を策定できる版元と編集者が、作家を消耗させる
事なく高品位な作品を、読者に供給し続ける事が出来るかどうかが、
肝となるのではないでしょうか。

生まれ変わったら、何になりたい?

なりたい 』の

イラストブックレビューです。

 誰もがみんな心に願いを秘めている。空を飛んで見たくて、
妖になりたいという者。お菓子を作りたいがために、人に
なりたいという神様。それそれのなりたいを叶えるために
巻き起こった騒動そして、そこから見つけた、若だんなの
ほんとうの願いとは。しゃばけシリーズ第14弾。

f:id:nukoco:20180727192038j:plain

神様たちを酒宴でもてなした若だんなは、来世は何になりたいかを
考えておくように、と神様たちから課題を与えられます。
今生では病弱で、何度も死にかけていて、妖たち仲良く
暮らしている若だんな。生まれ変わったら何になりたいのか?
考えている間にも、こうなりたい!と希望する人間や妖たちが
次々とやってきます。

いつの時代も、そして人ならぬ妖だって悩みを抱えているもの
です。不思議な事が大好きで、空を飛びたいから妖になりたい、
と願う人間。天狗の力を借りて飛んでみるのだが。裏テーマは
天狗同士の友情です。人間の寺に引っ込んだ、天狗の友人に
会いたいのに、できない。そんな天狗のジレンマを、若だんなが
上手にまとめます。天狗よし、人間よし、他の妖よし、の
三方よしの見事な策を出せるのは、それぞれの気持ちを痛いほど
理解できる若だんなだからこそ。細やかな心遣いと、それぞれの
立場への配慮が窺えます。

人の姿になり、菓子を作っては細々と売っている道祖神。時代の
移り変わりから、自分の置かれていた場所には人が通らなくなった。
ついては、お供えにもらっていたような菓子を自分で作り、人間に
売って暮らしていきたい。人間として生きていきたい、という道祖神
ところが血まみれで倒れているところを発見され、次には姿が
消えていた…。ミステリ調の展開です。

道祖神は、お菓子が好きだから作りたいのかと思っていたら、
お菓子を食べる子どもの笑顔が見たいのだ、と言います。人間に
なっても、人間を愛おしく思い、大きく包み込むように見ていて
くれているのだと思うと、なんだかじんわりと嬉しく、おなかが
温かく感じられるのです。

なりたいと願う思いは、人であれ神であれ、妖であれ、その数だけ
あるものです。望みがひとつ叶うということは、叶わなかった頃の
ものをひとつ失う事でもあります。望みを得る前の自分に戻る事が
できないとも言えるでしょう。そこまでの覚悟を持って神へ願いを
伝えているのでしょうか。神様との取引は決してやさしいものでは
ない。神様と若だんなの取り引きは、気さくながらも畏れある
やりとりで、人間たちの奢った気持ちに気づきを与えてくれるようです。
得るものと失うものは必ずあるのだ、ということを暗に教えてくれる物語です。

知らない大人の人とこんな話をしてみたかったんだ

うらおもて人生録』の

イラストブックレビューです。

 

優等生がひた走る本線のコースばかりが人生じゃない。
ひとつ、どこか、生きるうえで不便な、生きにくい部分を
守り育てて行くことも大切なんだ。『麻雀放浪記』の作者、
色川武大。麻雀界では雀聖、阿佐田哲也の名で通る。
様々な修羅をくぐってきた著者が語る、生き方論。

f:id:nukoco:20180727191833j:plain

戦時中に少年時代を過ごし、戦後の時代、賭場を数年渡り歩いた
後に、様々な出版社などに勤め、作家となった著者が若者に
伝えたい、生き方論とは。

大人しくて、人のやることをじっと見ている。でも参加できない。
そんな少年時代を送った後、戦時中に手作りした新聞を、学校に
見つかり無期停学処分。戦後は博打で生きていこうと決意し、
生活費も博打で稼ぐべく、賭場に出入りする…。

なかなかハードな人生を送っていらっしゃる著者。
大人しいけれども、自分の軸から外れることはしない頑固さと
見知らぬ場所でも飛び込む大胆さを併せ持っています。
麻雀界でも名を挙げている方ですから、賭け事のノウハウを持ち、
また、幾多のトラブルも乗り越えて来ている方なのだと思います。

それでも文面から漂うのは、相手をひとりの人間として、誠意を持って
若者に話をしてくれる、優しそうだけれども、どこか堅気でない空気を
醸し出しているいい歳したおじさんです。
世間一般から見ると、手本になるタイプとは言い難いかもしれません。

とはいえ、こんなにも自分と他人、世間を観察し、分析し、行動に
繋げている人間というのもなかなかいるものではありません。
作家という職業も、雀士という職業も、人の観察から場の空気まで
隅々まで読み取る事が出来るからこそ、続けていけるのでしょう。

著者が、ベースとなる子供時代から、そのベースもとに行動を
重ね、広げたり深めたりしていった青年期について、当時を振り返りつつ
そこで得たものを教えてくれます。本人が説教臭くなるのは嫌なんだ、
と言うように口調には非常に気をつけていて、押し付けがましくなく
相手(読者)のことを思い、配慮した口調で語りかけます。

だまされながらだます、前哨戦こそ大切…など、正論ばかりじゃない、
実際に生きていくうえで、大切な技術や考え方がたくさん載っています。
親や先生は教えてくれない、世の中の渡り方。
こんな話はなかなか聞けるもんじゃありません。
社会に出て、壁にぶつかった時。打ちひしがれた時。不安を抱えている時。
そんな時、優しく諭してくれる、そんな世間の先生のようなエッセイです。

会話は怖くない!無理せず楽しむ会話術

コミュ障は治らなくても大丈夫 コミックエッセイでわかるマイナスからの会話力 』の

イラストブックレビューです。

 

『初対面が苦手』『うまく会話が続かない』『話し相手に何を聞いたら
良いのかわからない』。そんな、コミュニケーションが苦手な人に送る
コミックエッセイ。

f:id:nukoco:20180727191553j:plain

 

ニッポン放送の人気アナウンサー、吉田尚記さん。新人時代の彼は、
人見知りで人との会話がうまくいかず、仕事上での連敗記録を更新していた…。

ラジオ局のアナウンサーといえば、流暢に言葉を並べ、ゲストの
人とも途切れることなく楽しく会話を続けているイメージがあります。
しかし、この吉田アナは、歌手の方などとのやりとりが全くうまく
いかない。自分のことばかり話してみたり、相手の気持ちに
寄り添えなくてギクシャクしたやりとりになったり、絡みづらい人ですね、
と相手から言われてしまったり…。

意図的に自分本位に会話をしているわけではないのです。
ただ、自分を大きく見せようとしたり、相手のことをすべて理解しようと
したりしていることが、会話の足枷となっておかしな発言として表に
出てしまっていたのです。

アナウンサーという仕事だから、学校や職場のコミュニケーションと
種類が違うのでは?と思われる方もいるかもしれませんが、本書は
どんな関係の人との会話でも共通して使えるコミュニケーションを
教えてくれていると思います。
大事なのは、相手に興味を持っています、知りたいと思っていますよ、
ということを伝えること。それがコミュニケーションなのです。
自分のことを伝えたいときは、まず相手に聞くこと。
そうした手順を踏むことで、会話のキャッチボールがテンポよく
やりとりできるのですね。

具体的な会話のテクニックについても、すぐに実践できる簡単な
方法ばかりです。たとえば、『自分の先入観をぶつけてみる』とか
『「なぜ」ではなく「どうやって」〇〇したのか、と尋ねてみる』など。
ストーリーを追って読んでみれば、吉田アナの具体的な経験に基づいて
解説されているので、非常に説得力があります。

もっとも興味深かったのは、第3章のコミュ障を救済する実践編。
コミュニケーションを苦手とする一般の方を集め、吉田アナが
やりとりについてレクチャーし、本作のマンガを書いている
水谷緑さんがレポートするという内容。これがねえ、コミュ障を
自覚する人間たちにはあるある行動&言動がてんこ盛りなんですよ。

そして、吉田アナのレクチャーにより改善されていく様子がすごい。
始まる前は、なんでこんな所に来ちゃったんだろう、早く終われよ、
という空気がビシビシ伝わっていた会場が、終わる頃には皆笑顔で
談笑しているんですから!会話が楽しいってすごい!
会話が盛り上がるとなんだかそのメンバーに好感を持てる!
最初の空気は何だったの、というくらいに和やかに終了するという。

ボールを受け取る時は、驚いてみる。
ボールを投げる時は、自分の偏見を交えて返してみる。
そうすると、思いもかけなかった方向からボールが返ってきて、
楽しい会話が発生するのです。言葉を発するほんの少しの勇気と
相手に興味示そう!という気持ちがあれば、コミュ障でも会話を
楽しむことができる。そんなことを教えてくれるコミックエッセイです。

その絶望に浸ることを許してくれる12の物語

絶望図書館 

立ち直れそうもないとき、心に寄り添ってくれる12の物語 』の

イラストブックレビューです。

 

絶望図書館には、世界中のさまざまなジャンルの話が
集められている。せつない話、とんでもない話、どきりと
する話。すべて、絶望した気持ちに寄り添ってくれるものばかり。
今の気持ちにピッタリな話がきっと見つかる。

f:id:nukoco:20180622233511j:plain

『人がこわい』『運命が受け入れられない』『家族に耐えられない』
『よるべなくてせつない』など四つのテーマのもとに、児童文学から
純文学にミステリ、エッセイまで、選りすぐった物語たちが
バリエーション豊かに掲載されています。そして、それぞれの物語には
どのような絶望なのかを短いタイトルをつけて示しています。

アンソロジーという方式は、選者の好みを押し付けられているような
気持ちになり、あまり好きではありませんでした。
先入観を持つことを恐れている部分もあります。
なるべく自分自身が本を読んだ時の気持ちを素直に感じたいのに、
物語の選者の思いを先入観として受け入れてしまうのでは?
などと思うことがあり。ことに物語に関しては自由な気持ちで
読み始めたいのです。

そんな、アンソロジー苦手と思っていた自分の感想は素直に『おもしろい』。
まずは児童文学から、三田村信行の『おとうさんがいっぱい』というブラックな
お話でガッチリと心を捕まれ、次に筒井康隆の『最悪の接触 ファースト・
コンタクト』というSFショートでおかしくも悲しい気分になり…。
掲載順序に気を使っているのはもちろんのこと、それぞれの作品についた
頭書きがいい。『人に受け入れてもらえない絶望に』『どう頑張っても
話が通じない人がいるという絶望に』『夫婦であることが呪わしいという
絶望に』…など、頁をめくるのにドキドキしてしまうような頭書きなのです。

図書館であるという設定で、各章が第一閲覧室、第二閲覧室…となっている
のも面白い。自分の好みだけでは手に取らないような作家さんや物語たちで
あることも良かった。思いっきりアンソロジーの恩恵受けていますね。
今日から意見変えます。アンソロジー万歳!

それにしても、絶望には実に様々な種類があります。
本書は絶望している人も、そうでない人も、いっしょに浸ることのできる
良書だと思います。人に理解してもらえない、心の奥でグルグルと
渦巻いている暗い気持ち。それは無理にキレイにしなくていいのです。
時にはそこにじっくりと巻き込まれることが、新たに動けるように
なるための準備期間になるのではないかなと思います。
すばらしい絶望の数々をぜひ体験してみてください。

日本で生きるリアルな「年寄り」像

傘寿まり子 1 』の

イラストブックレビューです。

ベテラン作家、幸田まり子80歳。自分の家で、息子夫婦、
孫夫婦との間で住居問題が勃発。自分の居場所がないと
感じ、1人家出を決意。ネットカフェでしばらく過ごす事に
なったまり子だが。

 

f:id:nukoco:20180622233217j:plain

なんと、80歳のおばあちゃんが主役のマンガです。
年寄りではあるけれど、執筆業も現役だし、身の回りの事は
自分でできる、元気なお年寄りです。
そんな彼女は、息子夫婦と、できちゃった結婚をした孫夫婦の
二世帯と共に生活しています。ところが、まり子を除いたメンバーで
家の建て替え計画を進めている事が判明します。そして、その
案の中には、彼女の部屋がないと想定されている事も。

そこでまり子は家出をしてしまいます。
家族に文句を言うでもなく、ただ、自分の存在が負担になって
いる事が辛かったのです。悲嘆にくれているだけではないのが
彼女のすごいところ。なんとネットカフェで暮らし始めます。

その上、その環境にすぐに馴染み、ネットカフェにあるマンガを
資料として執筆作業にも取りかかります。ものすごく環境適応能力が
高い。そして、作家の能力のひとつである好奇心の強さも、彼女の
行動力を後押ししています。

高齢者は、家族に遠慮しながら肩身の狭い思いをして暮らして
行かなくてはならないのか、生きていて申し訳ない、なんて
思いながら生きて行かなくてはならないのか。
こんなセリフ、いずれ年老いた自分の親が吐いたとしたら、子供と
しては何とも言えない思いで胸がいっぱいになっていまいます。

社会全体が余裕が無い。弱いものは目に映らない。または見ない
ふりをする。そんな、根底に流れる空気を感じながら、まり子は
その流れに逆らって必至に進んでいきます。
自由は孤独。自由は責任。腹を括った80歳のなんとカッコいいことか。

家出したまり子には、猫を飼うことになったり、初恋の方から
同棲を持ちかけられたりと、人生何周目かの盛り上がり見せて
います。高齢者とその家族の切ない想いや、空回りしてしまう心、
社会の高齢者に対する意識や対応。様々なテーマが潜んでいて
若者から中高年まで楽しめ、かつ考えさせられるすごいマンガです。