ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

日本で生きるリアルな「年寄り」像

傘寿まり子 1 』の

イラストブックレビューです。

ベテラン作家、幸田まり子80歳。自分の家で、息子夫婦、
孫夫婦との間で住居問題が勃発。自分の居場所がないと
感じ、1人家出を決意。ネットカフェでしばらく過ごす事に
なったまり子だが。

 

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なんと、80歳のおばあちゃんが主役のマンガです。
年寄りではあるけれど、執筆業も現役だし、身の回りの事は
自分でできる、元気なお年寄りです。
そんな彼女は、息子夫婦と、できちゃった結婚をした孫夫婦の
二世帯と共に生活しています。ところが、まり子を除いたメンバーで
家の建て替え計画を進めている事が判明します。そして、その
案の中には、彼女の部屋がないと想定されている事も。

そこでまり子は家出をしてしまいます。
家族に文句を言うでもなく、ただ、自分の存在が負担になって
いる事が辛かったのです。悲嘆にくれているだけではないのが
彼女のすごいところ。なんとネットカフェで暮らし始めます。

その上、その環境にすぐに馴染み、ネットカフェにあるマンガを
資料として執筆作業にも取りかかります。ものすごく環境適応能力が
高い。そして、作家の能力のひとつである好奇心の強さも、彼女の
行動力を後押ししています。

高齢者は、家族に遠慮しながら肩身の狭い思いをして暮らして
行かなくてはならないのか、生きていて申し訳ない、なんて
思いながら生きて行かなくてはならないのか。
こんなセリフ、いずれ年老いた自分の親が吐いたとしたら、子供と
しては何とも言えない思いで胸がいっぱいになっていまいます。

社会全体が余裕が無い。弱いものは目に映らない。または見ない
ふりをする。そんな、根底に流れる空気を感じながら、まり子は
その流れに逆らって必至に進んでいきます。
自由は孤独。自由は責任。腹を括った80歳のなんとカッコいいことか。

家出したまり子には、猫を飼うことになったり、初恋の方から
同棲を持ちかけられたりと、人生何周目かの盛り上がり見せて
います。高齢者とその家族の切ない想いや、空回りしてしまう心、
社会の高齢者に対する意識や対応。様々なテーマが潜んでいて
若者から中高年まで楽しめ、かつ考えさせられるすごいマンガです。