ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

知らない大人の人とこんな話をしてみたかったんだ

うらおもて人生録』の

イラストブックレビューです。

 

優等生がひた走る本線のコースばかりが人生じゃない。
ひとつ、どこか、生きるうえで不便な、生きにくい部分を
守り育てて行くことも大切なんだ。『麻雀放浪記』の作者、
色川武大。麻雀界では雀聖、阿佐田哲也の名で通る。
様々な修羅をくぐってきた著者が語る、生き方論。

f:id:nukoco:20180727191833j:plain

戦時中に少年時代を過ごし、戦後の時代、賭場を数年渡り歩いた
後に、様々な出版社などに勤め、作家となった著者が若者に
伝えたい、生き方論とは。

大人しくて、人のやることをじっと見ている。でも参加できない。
そんな少年時代を送った後、戦時中に手作りした新聞を、学校に
見つかり無期停学処分。戦後は博打で生きていこうと決意し、
生活費も博打で稼ぐべく、賭場に出入りする…。

なかなかハードな人生を送っていらっしゃる著者。
大人しいけれども、自分の軸から外れることはしない頑固さと
見知らぬ場所でも飛び込む大胆さを併せ持っています。
麻雀界でも名を挙げている方ですから、賭け事のノウハウを持ち、
また、幾多のトラブルも乗り越えて来ている方なのだと思います。

それでも文面から漂うのは、相手をひとりの人間として、誠意を持って
若者に話をしてくれる、優しそうだけれども、どこか堅気でない空気を
醸し出しているいい歳したおじさんです。
世間一般から見ると、手本になるタイプとは言い難いかもしれません。

とはいえ、こんなにも自分と他人、世間を観察し、分析し、行動に
繋げている人間というのもなかなかいるものではありません。
作家という職業も、雀士という職業も、人の観察から場の空気まで
隅々まで読み取る事が出来るからこそ、続けていけるのでしょう。

著者が、ベースとなる子供時代から、そのベースもとに行動を
重ね、広げたり深めたりしていった青年期について、当時を振り返りつつ
そこで得たものを教えてくれます。本人が説教臭くなるのは嫌なんだ、
と言うように口調には非常に気をつけていて、押し付けがましくなく
相手(読者)のことを思い、配慮した口調で語りかけます。

だまされながらだます、前哨戦こそ大切…など、正論ばかりじゃない、
実際に生きていくうえで、大切な技術や考え方がたくさん載っています。
親や先生は教えてくれない、世の中の渡り方。
こんな話はなかなか聞けるもんじゃありません。
社会に出て、壁にぶつかった時。打ちひしがれた時。不安を抱えている時。
そんな時、優しく諭してくれる、そんな世間の先生のようなエッセイです。