ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

『幸せ』の価値観を改めて考え直してみる本

しょぼい喫茶店の本』の

イラストブックレビューです。

 

就活に失敗し、人生に行き詰まった著者が、喫茶店を開くまでと、開店してから
現在までの経緯を綴る。数々の奇跡的な出会いや出来事が起こる、嘘のような
ホントの話。

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『えもいてんちょう』こと池田達也さんは、新井薬師にある『しょぼい喫茶店』の
店長です。ビルの二階、カウンター7席だけのこじんまりしたお店ですが、その
お店ができた経緯や池田さんの生き方が話題となっています。

池田さんは、小中学校はそれなりに目立つ元気な少年。ところが高校に入ってから
最初の挫折を味わいます。中学でレギュラーだったバスケが、高校では全く通用せず、
顧問からきつい言葉を投げつけられ自信をなくし、人の顔色を伺うようになって
いったといいます。

大学に入り、就職活動をするタイミングでまた違和感が訪れます。働きたくない。
ハッキリと感じるとともに、就活の一連の行動が、偽った自分を他人にアピールして
いるように感じて苦しくなっていったのだとか。働きたくない、というよりは
自分を偽った状態で人と仕事をすることが苦痛であり、できない、ということなの
ではないかな、と感じます。

就活に失敗したことで『お前は要らない』と言われたように感じていた池田さん。
親の期待に応えることができず、社会的にも役に立たない。深く絶望した池田さんは
布団から出られなくなります。そんな彼を救ったのは『普通ではない人々』。

都内に数店舗を経営し、年収は200万円。人とのつながりや面白いことがいつも目の前に起こっていて、そこに多くのお金は必要ではない。そう主張する人物をツイッター
見つけた池田さんはフォローし、そのツイートを心に刻んでいきます。

茶店をやる!と決意した池田さんですが、アルバイトで貯めたお金だけでは
開業資金に足りないことに気がつきます。そこでまたツイッターチェック!
そこでは仮想通貨で数百万円稼いだ、と呟いた人物がおり、その人に『しょぼい
茶店をやりたいので100万円ください』とリプ。間をつないでくれた人の助けに
より、なんと100万円を出資してもらうことに!アンビリバボー!

会ったこともない人から大金出してもらうってどうなのよ?とは思いますが
池田さんは、喫茶店をやりたい理由、自分がやりたい、やっていきたいことを
明確にして、出資者に伝えています。文章を読んでいても、真面目できっちりして
いるお人柄がにじみ出ていますし、何よりガンガン稼ぎたいわけではなくて、
やりたいのはあくまで『しょぼい』喫茶店だというところが、出資者の心を
動かしたようです。そう、この出資者もまた『普通ではない人々』なのです。

何とか開店。そして無給でいいから手伝いたい!と手を挙げてくれたのは
ツイッターから『しょぼい喫茶店』に興味を持ってくれたおりんさん。看護師を
していましたが、鬱病で退職。しょぼい喫茶店に関わることは自分にとっても
プラスになる、と考えてくれる人で、なんとオープンに合わせて鹿児島から
やってきて、店の近くにアパートまで契約した、という行動派の人でもあります。

ツイッター効果でオープンから順調な売り上げ。しかし、オープンから二ヶ月、
連休を過ぎた後から売り上げが落ちてきます。回復を図るために、営業時間を
伸ばしたり、メニューを増やしたり。それでも客足は増えることなく、二人の
疲労は溜まるばかり。

働きたくないから喫茶店をはじめたのに、二人が売り上げにつながらない部分で
頑張りすぎるのは、何だか矛盾していると感じた池田さん。そこで夜の営業時間は
希望する人に間貸しして、売上に対して報酬を払う形にしました。そのうえ、
希望者が得意とすることを主催としたイベントを行ってみることも(弾き語り
バーとか、本を交換するバーとか)。他にもいくつかの打開策が載っていますが、
これが純粋におもしろい。池田さんだからできたことではありますが、喫茶店
だからそれだけで売り上げを出さなくちゃいかん!という先入観をひっくり返されます。

日々の売り上げ、営業の工夫など、喫茶店の開業&運営ノウハウ的要素もありますが
それよりも大きいのは『幸せ』ってなんだ?という問いが常に漂っていること。
お客がたくさん入ればいいのか?
売りげが大きくなればいいのか?
自分はどうしたいのか?どう感じたいのか?

仕事と幸福のバランスを常に考えながら生きていく、とっても真面目で誠実な
『しょぼい喫茶店』の店長のお話。お金はいるんだけど、ガツガツ働きたく
ない。ガツガツじゃない働き方ってどんなものがあるのだろう。そして自分が
感じる幸せってどんなもの?
そんなことを考えさせてくれる一冊でした。


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