ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

国を巻き込む演技力を持つ男の運命は

総理にされた男   』の

イラストブックレビューです。

 

総理にそっくりな容姿を持つ売れない役者・加納は官房長官にさらわれた。
意識不明の総理の代役を務めて欲しいという依頼に、政治知識など持たない
加納は困惑する。しかし、政治という舞台で主役に立てるチャンスでは
ないかと考え…。

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総理に似た容姿を持つ加納は売れない役者。前座などで総理のモノマネを
しており、そこそこ受けはするが、主役の座は遠い。
そんな時に、黒服の男に拉致され車に乗せられます。

着いた場所は首相官邸。目の前にいるのは内閣官房長官
加納は、意識不明で入院中の首相の代役を頼まれます。
政治的には素人である加納。しかし、モノマネで鍛えた仕草や話し方、加えて
俳優で培った舞台度胸が功を奏して、記者への応対や議員との駆け引きなども
ソツなくこなしていきます。国民や議員たちを騙す、という大変な事態なの
ですが加納自身は、あくまでも「総理ならこんな風に言うはずだ」と考えて
発言しているため、判断や発言に迷いが出ることは無いようです。

そして学生時代からの友人で政治学者の風間、総理を見込んでこの人間に尽くす、
と決めた樽見官房長官。優秀なブレーンに囲まれて、加納の足元もバッチリです。
想定質問の回答までもしっかりと頭に入るのは、俳優業で台本を覚える経験を
しているからでしょうか。

面白いのは、国会答弁の場も演技要素をメインに取り入れていること。
ここでためて、視線を変えて、声に抑揚をつけて。
テレビで見る国会答弁の様子は、内容のボリュームにもよると思いますが、一本
調子で頭に入って来ないなあと思っていました。加納のように注目を集めるために
計算し尽くしたスピーチをすれば、耳を傾ける国民も増えるのではないかなあ。

国会における野党からの質問攻撃、官僚政治の打破、アルジェリア国内でのテロ。
次々と起こる難事に加え、頼りにしていた風間がイギリス勤務となって離れていき、
総理の容態にも変化が起こります。

それぞれの出来事も、最初は役者にしては良くやったじゃない!と痛快な気持ちで
読み進めていましたが、だんだんとその問題は重く、大きく、そして代役に任せる
にはとてつもない難題なのでは?という内容になっていきます。総理の代役としての
活動から、加納自身の人としての活動、判断へと変化していくのです。

政治のための政治ではなく、日本という国と国民のための政治を行う。今の日本では
そうした政治家はほとんどいないのかもしれません。しかし、正義と良心、加えて
国民に訴えかける演技力を持った政治家があらわれたとしたら。
そんな政治家を応援したくなるのではないか。
そして、その政治家が活躍する日本という国に期待したくなるのではないか。

そんな風に感じた物語です。

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