読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!
https://shimirubon.jp/columns/1691046
『ルドヴィカがいる 』の
イラストブックレビューです。
-
- 作者: 平山瑞穂
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2016/04/06
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る
小説家の伊豆浜亮平はヒット作にめぐまれず、フリーライターとして
雑誌に記事を書き生計を立てている。世界的ピアニストへの取材を
きっかけに遭遇したのは、不思議な話法で言葉を操る謎の女性。
彼女が操る言葉の意味は何なのか。創作する小説の世界と、現実
世界に起こる失踪事件。奇妙に絡まり合う迷宮で見つけたものは。
小説家としては今ひとつな伊豆浜は、生計のためにライターとして女性週刊誌の
仕事を受けています。世界的なピアニストの取材に出かけると、奇妙な
話し方をする女性と出会います。「社宅にヒきに行っている人とその
恋人の方ですね。ラクゴはミています。」そんな話し方をする
彼女は、ピアニストの姉。小説家、つまり言葉の達人である伊豆浜に
姉の言葉を解析してほしい、とピアニストから頼まれます。
身体に異常はなく、言葉づかいだけが奇妙。その彼女が失踪したところから
物語は事件性を帯びていきます。彼女が失踪したエリアでは、他にも
年齢の高めな男性が数人失踪しており、見つかった時には裸で、彼女と
同じように奇妙な言葉を話していたとのこと。伊豆浜は自身の小説の執筆も
行いながら、姉の行方を探します。
作品のなかでは、伊豆浜が新作の小説を書いているのですが、この
物語の内容が、自分の周辺で起きている事と次第にリンクしてきます。
伊豆浜は小説を書くにあたり、内容を掘り下げて掘り下げて、伏線を張って、
回収はすべきか否か…などとあらゆる方向から書き方を考えています。
小説家の頭の中を覗いているようで、おもしろいです。伊豆浜が言葉を
紡ぎ、操る様子が事細かに表現されています。
捜索中にかかってくる、ピアニストからの確認の電話は海外かららしく、
常にノイズがかかっていてよく聞こえません。それは、伊豆浜が
繭の中から外の音を聞くように、くぐもった意味を成さない音と
して感じられるのです。そして、創作した小説の中と、現実での
失踪事件の間にも象徴的に繭が登場します。
繭という頭の中で醸成された言葉たちが、バラバラに溢れ出して
いくような気味の悪さと、雑然としているのになぜか説得力を
持っているような、不思議な物語です。ジャンルとしては、ミステリだと
言えますが、創作世界と奇妙な現実世界を行ったりきたりしながらも
あるべき場所へ読者を運び込んでくれる、そんな奇妙な文体を楽しむための
物語と言えるのかもしれません。