ぬこのイラストブックれびゅう

ぬこのイラストブックれびゅう

雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

現実と創作の世界が錯綜した言葉の迷宮へようこそ

読書人が集う『シミルボン』にて、インタビュー記事掲載!

 https://shimirubon.jp/columns/1691046 

 

ルドヴィカがいる 』の

イラストブックレビューです。

 

小説家の伊豆浜亮平はヒット作にめぐまれず、フリーライターとして
雑誌に記事を書き生計を立てている。世界的ピアニストへの取材を
きっかけに遭遇したのは、不思議な話法で言葉を操る謎の女性。
彼女が操る言葉の意味は何なのか。創作する小説の世界と、現実
世界に起こる失踪事件。奇妙に絡まり合う迷宮で見つけたものは。

 

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小説家としては今ひとつな伊豆浜は、生計のためにライターとして女性週刊誌の
仕事を受けています。世界的なピアニストの取材に出かけると、奇妙な
話し方をする女性と出会います。「社宅にヒきに行っている人とその
恋人の方ですね。ラクゴはミています。」そんな話し方をする
彼女は、ピアニストの姉。小説家、つまり言葉の達人である伊豆浜に
姉の言葉を解析してほしい、とピアニストから頼まれます。

身体に異常はなく、言葉づかいだけが奇妙。その彼女が失踪したところから
物語は事件性を帯びていきます。彼女が失踪したエリアでは、他にも
年齢の高めな男性が数人失踪しており、見つかった時には裸で、彼女と
同じように奇妙な言葉を話していたとのこと。伊豆浜は自身の小説の執筆も
行いながら、姉の行方を探します。

作品のなかでは、伊豆浜が新作の小説を書いているのですが、この
物語の内容が、自分の周辺で起きている事と次第にリンクしてきます。

伊豆浜は小説を書くにあたり、内容を掘り下げて掘り下げて、伏線を張って、
回収はすべきか否か…などとあらゆる方向から書き方を考えています。
小説家の頭の中を覗いているようで、おもしろいです。伊豆浜が言葉を
紡ぎ、操る様子が事細かに表現されています。

捜索中にかかってくる、ピアニストからの確認の電話は海外かららしく、
常にノイズがかかっていてよく聞こえません。それは、伊豆浜が
繭の中から外の音を聞くように、くぐもった意味を成さない音と
して感じられるのです。そして、創作した小説の中と、現実での
失踪事件の間にも象徴的に繭が登場します。

繭という頭の中で醸成された言葉たちが、バラバラに溢れ出して
いくような気味の悪さと、雑然としているのになぜか説得力を
持っているような、不思議な物語です。ジャンルとしては、ミステリだと
言えますが、創作世界と奇妙な現実世界を行ったりきたりしながらも
あるべき場所へ読者を運び込んでくれる、そんな奇妙な文体を楽しむための
物語と言えるのかもしれません。