ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

君の頭の中の世界を一緒に楽しみたい

春と盆暗 』の

イラストブックレビューです。

 

好きな子ができた。彼女は誰もが認める『いい人』キャラ。
しかし僕は、彼女のとんでもない“頭の中”を知ってしまう。
さえない男子たちが予想外のドラマを生み出す、4編の恋愛物語。

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盆暗(ぼんくら)とは頭の働きが鈍く、ぼんやりとしていること・さま。
まさに盆暗と言える、大人しそうでそんなに積極的ではない、どこにでも
いそうな普通の男の子たちが登場します。
女性たちも、やや大人しめではあるけれど、ちょっとした問題を
抱えているような、でも表面上は全く問題がないような子たちです。

変な客に絡まれてもニコニコといつも笑顔の、バイト先のサヤマさん。
嫌なことが起こったとき、彼女はある妄想をして事態を乗り越えて
いたのだ!どんな内容なのかというと

月面を思い浮かべてそこに思いっきり
道路標識を放り投げるんです

…というものだそうな。
「へ、へぇ〜 そうなんだ…(汗)」と引いてしまいそうなもんですが、盆暗男子は
違います。サヤマさんの妄想について考え、サヤマさんに説明を
求めたりするのです。そして、トラブルが起こった時、彼なりに考えた
行動で、サヤマさんを助けようとするのですが…。

盆暗男子というのは、周囲の人が見落としてしまうような出来事も、
通過してしまうことなく、拾い上げて見つめることができるのかもしれません。

女の子の頭の中に広がる妄想の世界。自分もそこに飛び込んで
一緒に楽しみたい。救い出したしたいとか一段上からではなくて、
あくまでも同じ場所で、同じものを見、感じることを大事に
考えているところがいいですね。

そうした彼らの思いが、絵の中に登場すると、妄想の非現実な世界なのに、
その中にいる二人がとてしっくりとはまっているのです。
こうした妄想の世界の描き方が、また非常に上手い!
こういう世界を漂っているのか!と納得できる情景です。

自分の妄想世界を、盆暗男子と分け合った女子たちは、臍を曲げてみたり、
むくれてみたりしていますが、その後の共有感で一歩距離を縮めて
いく様子が可愛くて、思わずニヤニヤしてしまいます。

不思議だけど、どこか懐かしいような、でも全然知らない世界のような。
そんな世界を中心に、外側にいた二人が、少しずつ近づいていく、
恋愛物語のコミック。その世界観や、妄想女子と盆暗男のピュアな
やりとりが好ましく、何度呼んでも満足度の高いお話です。