ぬこのイラストブックれびゅう

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雑読猫、ぬこによるイラストブックレビュー。本との出合いにお役に立てれば幸いです。

薄気味悪い。怖い。でも止められない。

Q&A 』の

イラストブックレビューです。

Q&A (幻冬舎文庫)

Q&A (幻冬舎文庫)

 
 
これからあなたにいくつかの質者をします。
ここで話したことが外に出ることはありませんー。
2002年2月11日午後2時過ぎ、都内郊外の大型商業施設に
おいて重大死傷事故発生。死者69名、負傷者116名。
未だ事故原因を特定できず。
質問と答えだけで物語が進行する物語。

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郊外の大型商業施設において、火災報知器が鳴り、お客たちが
一階へ避難していたところ、一階の客が何故か上の階へ向かおうと
殺到してきたため、エスカレーターや階段で多くの乗客が押し合いと
なり、多くの圧死者や負傷者が出た、という事故。
消防や警察が原因を調べたが、特定できなかったのです。

事故からしばらくたった頃、この事故についてのQ&Aが行われます。
質問者は政府関係者?であったりマスコミであったり様々です。
回答者のほうも事故の被害者、知人が被害にあった者、
全く関係がないように見える者、とこちらも多種多様。

もうね、この本は恩田さんの構成力、文章力スゴイ!という作品ですよ。
まず事故(あるいは事件?)自体が謎に満ち溢れています。
多くのお客さんたちがパニック状態で逃げまわって被害が多数出ている
というのに、誰もその原因がわからないのですから。

なんだそれ?と思いますよね。私もそう思います。
そこで、火災報知器が鳴る前の出来事を被害者に質問します。
警察と異なる状況であるせいか、被害者は当時思い出せなかった
出来事を思い出します。

そして、彼らは事故の被害者であると共に、プライベートでも
問題を抱えていることが浮き彫りになります。
事故を経験したことで、考え方においても変化した様子が
伝わります。

この現場の救出作業を行なった消防士にも変化が訪れます。
数年前に、父母を数ヶ月の間に亡くしたときのことが
フラッシュバックしてしまい、精神状態が不安定になってしまうのです。
今は妻子が家で待っていてくれる。しかし、その家族もいつ突然
いなくなってしまうかわからない。そんな不安に取り憑かれている、
と言います。怖いです。

そして、事件の時に無傷で助かった少女。
母親がこの少女を「奇跡の子」と称して、事故の被害者を呼び込み、
宗教法人を立ち上げます。最初はにこやかに質問に答えていた母親ですが
語るにつれてまあ〜黒いものが出てくる出てくる…。
事故も怖いが人間が怖い。

事故自体が謎に満ちていて、じんわり怖いです。
恐怖の正体がわからないのでは、想像するしかない。
そんな被害者の心理に自分も近づいていってしまいます。
真相が近づいていくにつれ、事故の背後に隠れているものや
人間の恐ろしさが少しづつ表に出てきて背筋がゾワゾワします。

一見、なんでこの人が事故について語るのかな?
と思う人が後になって別の人つながったりするため
ゾワゾワするんだけどワクワクしちゃったりして
もうページをめくる手が止まりません。

多くの人が巻き込まれる事故・事件には、それだけの人の数の
人生が存在しています。そして、そのことが事故・事件を複雑に見せて
いることもあるのだな、と思いました。
それと、一見遠いようで、真実に近づいている話をなんてことなく
披露している様子が実にうまい。
んなわけないでしょ、思わせておいて、え!やっぱそうなの!?
でもハッキリとは言わないのね!?といったところで。

気味が悪い、怖いのだけれどもおもしろすぎて読まずには
いられないのです。完全著者の世界に引き込まれて
しまった物語でした。